第15章 BOOST
ー影山side
渡されたジャージから彼女の温もりが伝わる
小一時間前、体育祭の練習を早々に切り上げて1番乗りで体育館に着いた時、午後の日陰の中、フロアの真ん中に倒れてる人を発見して
焦って駆け寄ったら
なんとそこには橘さんが大の字で寝ていた
すやすやと寝息を立てて眠る橘さんの頬には何故か涙が乾いた痕があった
泣いてた?…どうして…?
心配になって顔を覗き込むけれど、どちらかと言うと彼女は幸せそうに眠っているように見えた
ふと、むにゃむにゃと何かを言う愛らしい唇が目に入り、俺はゴクリと唾を飲んだ
彼女には好きだと伝えた
日本代表になったら迎えに行くとも
そしてそれを月島にも宣戦布告した
でも、こんな風に眠っている彼女に何かをするなんてことはさすがに気が引けた
くせに…少しくらいなら…って
俺は白く華奢な彼女の手を取り、その甲にそっと口付けた
「これなら…ギリギリセーフか?」
ガタンっと音がして振り向くと日向がいた
「影山…と、人…死んで…人殺し??!?」
日向は神妙な面持ちで両手で口を覆う
「ばっ!!ちげぇわ!橘さんだよ!」
「なんだ歩かよ!どうせ寝てんだろ?おーい!歩こんなとこで何してんだーーー!風邪ひくぞーーー!」
って大声出しながら日向が近づいてくる
俺は慌てて立ち上がり
「おい、やめとけよ、疲れてんだろ…そっとしといてやれよ。先、走りに行くぞ」
と言って日向を体育館の外に押し出した
で、慌ててロッカーに戻って彼女の上に自分のジャージを被せて体育館を後にした
無理矢理ランニングに引き摺り出した日向は俺の横に並ぶと
「お前、さっき歩の手ぇ握ってなかった?」
と曇りのない眼差しで問い詰めてくる
「はっ?!違ぇわボケェ!その!あれだ!脈があるか確認してたんだよ!」
「ああ!なるほどな!俺も最初死体だと思ったからな」
「そう!そうだよ!」
よかった、手の甲にキスしたのはバレてな…
「お前さ…歩のこと好きだったんだな」
茶化すでも冷やかすでもなく、真っ直ぐに俺を見据えて日向が言う
「なっ!!!なんでそうなる!」
「影山が恋愛ねぇ…」
「まだ何も言ってねぇだろ!ボケェ」
「キレが悪いぞ」
「うるせぇ」