第15章 BOOST
「将来、公務員や優良企業の会社員になるために難関大学に入る、難関大学に入るために、受験を必死に頑張る、二度と戻らない学生生活を受験のために犠牲にする…まだ見ぬ将来への不安ばかりが先行してしまう気持ちは分かるけれど、僕は、今というかけがえのない時間をかけがえのない友達と共に輝かせてほしい…なんて教師らしくないこと思ってしまう時があります」
そう言って微笑んだ武田先生はひどく優しい顔をしていた
「先生…」
「去年の3年生に似たような話をしました」
「え、大地さんたちにですか?」
先生はコクリと頷く。
「受験のためにIHで部活を引退するか、それとも残るか…彼らも悩んでいました」
当然のように残ってくれた3年生にこんな葛藤があったなんて知らなかった
今思い返せば、スガさんが…言っていたような気がする
レギュラーになれないかもしれないのに、残ることを決意したことについて…
その時、ただ先輩たちと長くいられることを呑気に喜んでいた自分が恥ずかしくなる
「その時に彼らに話したのは…君たちが部活をしている時間、他の同級生たちは進路に向けての準備に当てている。その差は大きい。考えて選んでください。君達が5年後、10年後、後悔しないほうを」
そんな風に武田先生に言われて、あの人たちは全員…
「そう、そして彼らは輝く"今"という時を選んだ」
涙が止まらない
武田先生の言葉も3年生の想いも全部が津波のように押し寄せてくる
「教師である以上、その決断を100パーセント肯定するわけにはいきませんが…僕は、彼らを誇りに思います」
「ぐすっ…ぐすっ…ぅわぁぁぁん」
「えええ!橘さん!いくらなんでも泣き過ぎでは!」
オロオロとして武田先生が立ち上がる
「ぜんぜぇぇ…ズズズ…私、今ずっとみんなと一緒にいたいんです!烏養こぉちがぁ…言うように、ぢゃんとした飯をみんなに食べてもっどもっど強くなってほしいよぉぉぉぉ」
もうこうなってしまえば収拾がつかず、私は欲しいものをねだる子供のように生徒指導室で泣き喚いた
その間も武田先生はずっと、ウンウンと優しく相槌を打ってくれていた
ひとしきり泣いたあと、先生は優しい声色で