第15章 BOOST
「ってなわけなんですよ武田先生」
夏休みがあけ、そろそろ体育祭ムードが色濃くなってきたタイミングで、私は武田先生に自分の進路について漠然と思っていることを話した。
周りが目標を持って、何かに向かって成長しているような気がすること。自分の得意なことはあるけど、それを将来の仕事にするイメージが湧かないこと。それについて翔陽と話して、将来の自分に捉われずに今やりたいことを考えろと言われたこと。その結果、翔陽や部のみんなの食にまつわるサポートがしたいと考えたこと。
取り留めもない私の話を、武田先生は柔和な表情で頷きながら聞いてくれた。
そしてひとしきり聴き終わると
「実に橘さんらしいですね」
と先生は言った
「私らしい…?」
「はい、進路が決まっていない生徒や将来の夢が見つからない生徒というのは、あなたが思うよりずっとずっと多いんですよ。その中でわざわざ、自分の将来について不安だと口に出して相談してきてくれる生徒はあまりいませんから」
「すみません、担任でもないのに」
「いいえ、相談してもらえるのはとても幸せなことですよ、橘さん」
「先生…でも先生もやっぱり生徒の将来を心配しますよね?」
「そうですね…みなさんがそれぞれ幸せだと思えるような大人になってくれるのはとても喜ばしいですが、それは教師や保護者、大人のエゴに過ぎない…とも思います」
先生の言葉は少し難しい
でもきっとなにか大切なことを伝えてくれているのだろうから、一言一句聞き逃すまいと前のめりになる
「と、言うと?」
「今の高校生の将来なりたい職業の上位をご存知ですか?」
「…なんでしょう、周りにバレーボール選手を志してる人が多過ぎて正常なデータが…」
「公務員…だそうですよ」
「はぁ…でも、先生も公務員ですよね?」
「教師、はまた別のカテゴリーでしたので、ここで言う公務員は多分…役所勤めのことではないかなと思います。あと、会社員…になりたいという意見もあるようです。もちろん、役所に勤める方も会社勤めされる方も立派だと思います。その方々なくしては世の中回らないって思います。でも…僕は日向くんの意見に賛成です。」
「え…」