第14章 NEXT LEVEL
うだるような暑さの中、練習試合が重ねられる
何セット終わっても翔陽は、もいっかい!もいっちょ!と相手チームに言い続けて、敵味方みんなをげんなりさせていた
特に研磨さんは露骨に嫌な顔しながらも、もう一度がある試合に応じている姿は、どこか愉しげでもあった
烏野チームは勝つこともあれば当然負けることもあって、その都度灼熱の裏山をダッシュしていた
去年、裏山をダッシュしていた時は(烏野が負けまくっていたから、というのもあるけど)蛍がすごくしんどそうで、山口くんに全然ついて行けてなかったのに、今年は張り合うように一生懸命走っている
どんな蛍も好きだけど、暑苦しく頑張ってる蛍は本当カッコイイ
そんな蛍に負けまいと、ダッシュする山口くんはとても楽しそうに見えた
蛍に山口くんがいてよかったなって心底思う
去年の合宿で山口くんが蛍の胸ぐらを掴んで、本音をぶつけてくれたからこそ、今の蛍がある
夜になり各々自主練の時間を迎え
私は…何となく蛍はそっちに行くんじゃないかと思って、第三体育館に向かった
木兎さんや黒尾さんがそこにはいないと分かっていても、なんだかそちらに足が向いてしまう
ガラ…と扉を開けると、照明はついているのに人気はなかった
「月島探してるの?」
ふいに声がして、キョロキョロと辺りを見回すと、扉の近くの壁際に腰掛ける赤葦さんが視界に入った
「赤葦さん!お疲れ様です。別に蛍を探してたわけでは…」
「そうなの?」
「赤葦さんは、今から練習ですか?」
「そうだね…なんとなく。…もう木兎さんはいないのにね」
「分かります、私も同じこと考えて…でも来ちゃいました」
赤葦さんに近づくと、彼の隣にはタオルとドリンクのボトル、それにレザーのカバーが掛けられた文庫本が置かれていた
「それ、なんか読んでたんですか?」
「ああ…うん、誰も来なかったらここで少し読書して風呂行こっかなって思ってた。1人の体育館って静かだから」
「何の本ですか?」
「福永武彦の愛の試み」
「読んだことないです」
「そう?面白いよ、あげようか?」
「読みかけじゃないんですか?」
「結構何回も読んでるから」
そう言うと赤葦さんはカバーを外して、中の文庫本を差し出した