第14章 NEXT LEVEL
ー赤葦side
今日から合宿が始まる
宮城から来る御一行様は知らないけど、俺たち都内出発組は余裕のある集合時間だった
荷造りは前日までに終えてたし、最終チェックだけしておこうと荷物を確認する
去年までは…木兎さんが使うから普通サイズのシャンプー、リンスにボディーソープを準備していたけど、今年は1人分のトラベルサイズ
アイマスクや耳栓も常に予備の分を入れていたから、木兎さんの分の用意をしなくてもいいと思う時、彼がもう梟谷にいないことを痛烈に感じてしまう
でも荷物はとくに減らなかった
いくら合宿中とはいえ、あくまで俺たちは受験生、合宿の間も勉強する時間は確保するつもりだ
そう考えて、何冊か参考書を詰めながら
ああ、木兎さんって合宿に参考書とか持ってきたこと1回もなかったな、と思い出された
彼は元より進学のことなど考えていないのだ
バレーをやり続けてそれで食っていく
そう運命づけられているのだから仕方ない
そういう生き方は羨ましいけれど、自分がしたいわけではない
俺は多分バレーは高校で終わりだと思う
進学した先の大学にバレー部があっても、もうやらないかもしれない
木兎さんという稀代の天才にただひたすらにトスを上げ続けた2年間は、最高に楽しかった
だからもうある意味、俺のバレーボールは満ち足りてしまったのかもしれない
俺はサイドテーブルの上に置いてある、読みかけの本を手に取った
小さな頃から読書が好きだった
色んな物語の主人公の人生を追体験する感覚は、まるでもう一つの自分の人生を生きているようで、夢中で沢山の本を読んだ
そして俺の現実世界に、漫画の主人公が現れた
木兎光太郎という鮮烈な主人公…
いつか木兎さんが主役になるような物語でも出来そうなくらいだな
高校を卒業したら文学部に進学したいと漠然と思っていたが、例えば編集の仕事なんて俺に向いているかもしれない
作者という主人公を支える編集の仕事はやりがいがありそうだ
そう言えば彼女、歩ちゃんも読書が好きだと言っていたな
歩ちゃんか…春高のあと、月島と付き合ったって風の噂で聞いてしまったけど、合宿に行けば彼女もいるんだろう
会いたいような会いたくないような、なんとも言えない感情が込み上げてきた