第13章 新たな風
約束の時間
改札を出たところで、白いTシャツに紺色のジャージのパンツ姿の及川さんが目に入る
壁にもたれながらスマホを弄る及川さんを、すれ違う女の子たちがチラチラと見る
そっか…及川さんってイケメンなんやな
「お待たせしました」
声を掛けると、及川さんはイヤホンを耳から外す
「久しぶり…ふーん、相変わらず可愛いね」
及川さんはそうやってまた軽口を言う
と、さっき及川さんをチラチラ見ていた女の子たちから
「えー、やっぱ彼女持ちかぁ」
「ショックー、でも彼女モデル並みに美人」
などざわざわと話す声が聞こえてきた
「及川さん、モテモテですね」
ニヤっとしながら言うと
「まぁね〜でも今日はそんなモテモテの及川さんを歩ちゃんは独り占めだね」
と言って及川さんは、私の手を取る
「さ、急ごう」
及川さんは私の手首を掴んだまま、少し先を歩く
「わっ、ちょっと…」
駅から少し歩いたところに市民体育館があり、どうやらそこでちびっこバレーボール教室と題してバレーボールの練習をしているようだ
「及川さんはスポ少のコーチに就職したんですか?」
と、冗談混じりに訊いてみる
及川さんもこの3月に卒業したのだから、当然高校生ではない
就職したのか進学したのかも知らなかったけど、なんとなく青城は進学校だから大学に進学しながら、バレーボールを続けているのだろうと思っていた
だからスポ少のコーチに就職、は冗談だけど
「違うから!これは月一くらいかな?ボランティアだよ」
「お、及川さんがボランティア…?」
「え、何その反応。心外なんだけど…ってまぁ甥っ子がこのチームに入ってるって縁もあって…最初は付き添いで来て、周りの子供教えてるうちに何となく…って感じで続けてるんだよね」
「そうなんですか、てか及川さんに小学生の甥っ子がいるとは」
「うち、姉ちゃんと結構歳が離れてるからさ」
「へー、面白い」
「何が面白いの?」
「及川さんのこと、私なんも知らんかったんやなーって。だから休日に子供にバレーボール教えてるのも、小学生の甥っ子がいるのも、歳が離れたお姉さんがいるのも、意外で面白いです」
私がそう言って笑うと、何故か及川さんは少し悲しそうに笑った