第13章 新たな風
「お待ちどうさまーー!!」
なんとか昼食の時間に間に合った私たちは、体育館の外に臨時で設置した机におにぎりが入ったトレイを置いた
5月の木陰は涼しく、みんな体育館の外の陰になる場所にドサッと腰を下ろす
「あーもーまじ腹減ったぁぁぁ!!」
翔陽が急かすように机の周りをウロウロとする
私は一つのプレートにおにぎりを2つずつと、作り置きのおかずを盛り付けていき、それをやっちゃんとりなちゃんが手際よく選手たちに配っていった
「ほう、これを君達だけで作ったのかい?」
猫又監督が私の手元を覗き込むように言うと、烏養コーチが得意げに
「うちのマネージャーが、選手のためにって献立から調理から全部張り切ってやってくれたんですよ」
と説明する
「音駒のマネージャーさんにも手伝って貰いましたよ」
と猫又監督に言うと、監督はニッコリ笑った
「なぁ歩、このサラダチキンお前が作ったのか?」
口の中にいっぱい頬張りながら翔陽が近づいてくる
「そやで」
「すっげ!鶏ハムなのに何でこんなしっとらやわらかになるんだ?うちの母ちゃんに作ってもらうからレシピくれよ」
「いいで、てか今度直接翔陽の家行ってお母さんに説明するわ」
「まじで?!じゃあ昨日の夜作ってくれた野菜のやつも頼むわ」
「翔陽、めっちゃグイグイくるな」
「だってコーチがいつも言ってるだろ?練習の後はちゃんとした飯を食えって。俺、ちゃんとしたいんだよ。もうぶっ倒れたりしねぇように、体作りとか真剣にやりたい」
いつになく真剣な表情の翔陽
多分それはこの前の春高の最終戦で倒れて、途中退場してしまったからだろう
あの時翔陽は、武田先生に
「他人よりチャンスが少ないと真に心得なさい、そしてその少ないチャンス、ひとつも取り零すことのないように掴むんです
君こそはいつも万全でチャンスの最前列にいなさい」
と声をかけられた
それからの翔陽は、体調管理や体作りをすごく意識するようになって、私も実はその翔陽を見て、より選手の食生活に対して何かできることはないかと考えるようになったという経緯がある
私ももう二度と、翔陽や他の選手にあんな思いをさせたくはない
そんな私たちの会話を聞いていた研磨さんが、木陰から現れて
「翔陽だけズルい、おれんちにも作りにきてよ」
と呟く