第13章 新たな風
加藤さんも辛かったんやろう
好きな人が私という亡霊のマネージャーに取り憑かれているような気がしてたのかもしれん
そう思うと心の底から嫌いにはなれなかった
「でも本当…橘さんのことを傷付けたのは事実だし、私のこと許せなかったら殴ってくれてもいいよ」
「せやな〜じゃあ、おにぎりデスマッチの刑で」
「え?!おにぎり?!」
「今から全員分のおにぎり作るねん!昼までに!一緒に作ってもらうで!加藤さん、下の名前何なん?」
「りな…だけど」
「よしっ、やっちゃーーーん!りなちゃんも手伝ってくれるってー!」
私はりなちゃんの腕を掴んで厨房に入った
やっちゃんは笑顔で応えてくれる
「おねしゃすっっ!!」
「ささっ、手洗って!急ぐで急ぐで〜!」
私が元の持ち場に戻って、しゃもじでご飯を混ぜていると、りなちゃんはボソッと
「やっぱ敵わないな…」
と呟く
「そんなことないと思うで」
「え?」
「私らはマネージャーになった時、3年に先輩がいたけど、りなちゃんは誰からも教えてもらわずに、マネージャーの仕事やってるんやろ?めっちゃすごいと思うけどな」
私がそう言うと、やっちゃんもコクコクと頷く
「そんなことないよ…元はと言えば…ただ、ある人に憧れて近づきたくて始めただけだから」
「動機なんて何でもいいんじゃないかな?…私も全くの未経験で、初めはマネージャーするかどうか悩んでたんだ」
やっちゃんが言う
そういえばそうだったなと1年前の今頃を思い出した
「バレーボールに詳しくなくても、少しずつ知っていけばいいし…加藤さんがマネージャーやりたいって今思ってるなら、一緒に頑張ろうよ」
やっちゃんの言葉に照れながらりなちゃんはコクリと頷いた
「まだまだ分からないことだらけだけど、楽しくて続けたいなって思ってる」
「だったら大丈夫だよ!あ、私が1年間OBの先輩とか歩ちゃんに教えてもらったバレーボール語録を書き留めたノート見る?」
「あ、私もノートある!良かったら持って帰って」
「…どうして?」
「ん?」
「…どうしてこんなに優しくしてくれるの?…私あんなにひどいこと…」
そう言うとりなちゃんは肩を震わせて俯いてしまった
「それはもう解決したやん。そのかわり指紋なくなるまでおにぎり握ってもらうけどな」