第13章 新たな風
「ちょっと…話いいかな?」
明らかに私に向かって話しかけている
なんや…タイマンの申出?
チラッとやっちゃんを見ると、やっちゃんはコクンと頷く
「わかった」
そう言って私は食堂の入口に立っている彼女の方に近づいていった
厨房から出て、みんながご飯を食べる食堂のところで向かい合う形になる
少し大きめの赤いジャージを着た小柄な彼女と、黒いジャージで彼女を見下ろすように立つ私
…なんか私がいじめてるみたいやん…
「ごめんなさいっ」
彼女…加藤さんは突然90度に頭を下げる
「うわっ…なんなん…昨日はめっちゃつっかかってきたのに、今日は急に謝ってくるし」
「…だよね…本当ごめんなさい。私…最近マネージャーになったばっかりで…一生懸命やってるつもりだけど、みんなが橘さんの話ばかりするから腹が立って…つい、ひどいことを」
昨日とは打って変わって、真剣な面持ちで謝罪してくる
「…私も、加藤さんがマネージャーでいるって分かってんのに、いつまでも音駒の仲間気取りでいたのは、気悪くさせたと思う。にしても、昨日言われたことは正直傷ついた」
「うん、分かってる。橘さんがどれだけマネージャーの仕事を真剣にしてて、仲間のために尽くしてるか…でもあなたが完璧であればあるほど、自分が惨めで醜くて…勝ち目ないって思い知らされて」
俯いて声を震わせる加藤さん
その様子を見てピンときた
「え、なに?勝ち目?マネージャーに勝ち負けとか…あ、もしかして加藤さん音駒に好きな人いるん?」
彼女は驚いて目を見開く
「え…どうして」
「ビンゴ?勝ち目ないとか言うからやん、好きな人おるんやろ?あん中に」
加藤さんはコクンと頷く
「ふーん、やっぱりな。勝ち目ないとか勝手に決めてるけど、安心して?私は音駒の選手のこと誰もそんな目で見てないし、一応…その彼氏いますので」
彼氏がいるとか自分で言うのは小っ恥ずかしいけど…
「知ってるよ、背の高い眼鏡の彼だよね?」
「え?!え?!なんで知ってるん?!」
「ふふ、いい彼氏さんだよね。お似合いだと思う」
「いい彼氏?!初めて言われた!大体、あんなやつやめとけって言われるから」
そう言うと彼女は笑った