第13章 新たな風
「…歩」
後ろから近づいて声をかけると、洗濯機の前で三角座りしていた歩が弾かれたように振り向く
「蛍…」
そう僕の名前をこぼす歩に、いつもの圧はない
「なんかあったんデショ、影山に聞いた」
そう言いながら歩の隣に腰を下ろす
「あ…影山くんが…うん…なんか音駒のマネージャーの子に結構ひどいこと言われて、今日が初対面やのに私何したって感じで」
努めて明るく言う歩だけど、本当は内心傷ついてるんだろうって伝わってくる
「ひどいことって?」
「音駒はうちと違って外に宿とってるから、残ってる仕事手伝おうと思ったら、仕事できるアピールしてマウント取ってるとか…そんなことより選手に色目使って話するのが得意なんでしょ…とか」
遠くを見つめながらボソボソと話す歩
初対面の他校のマネージャーに対して放つ言葉としては、かなり辛辣だ
どうしてそんなことを…
「僕は…歩がそんな奴じゃないって知ってる。マネージャーの仕事をしている君はいつも誠実だってこと」
「…蛍」
「それに、谷地さんや他の烏野のメンバーもみんな知ってる。だから、あまり気にしすぎなくてもいいんじゃない?」
「ありがとう、でもまぁ…他校のマネージャーがしゃしゃり出てきたらいい気せーへん気持ちもわかるから、そこは反省してる」
「まぁそこは僕としても、あんまり音駒の連中と親しくされるのは若干モヤモヤするし」
「以後気をつけます」
「でもあのマネージャーも的外れなこと言ってるね」
僕がそう言うと
「え?」
と歩は不思議そうに首を傾げる
「だって歩が色目を使うのは僕にだけなのにね」
そう言うと、歩の顔がみるみる紅くなる
「ちょ…!不意打ちでそういうのズルい」
と歩は僕と逆の方向を見る
「なんでそっち向くの?」
「なっ、なんでもっ!あーアツ!」
そう言って歩は両手でパタパタと自分の顔を仰ぐ仕草をする
「歩…?嫌なことあったらさ、自分一人で抱え込まずに何でも僕に言いなよ」