第3章 春高予選
「先生に後悔しない方を選んでって言われて、引退しないで残ってバレーするって迷わず決めたし、その選択が間違ってるとは思わないんだけどね」
そう言ってペットボトルに入ってた残りの水を飲み干す
「スガさんと影山くんはポジションは同じセッターですけど、どちらが入るかによってチームの色が全く変わると思うんです。それってすごくないですか?カードゲームのデッキ2種類持ってるみたいな」
「また独特な解釈するね」
「私は別に影山くんが完璧とは思いません。確かに天才的な技術があってどんな場所からでもセッティング出来る能力はすごいと思いますけど、スガさんが入るとみんながいい意味で肩の力が抜けるっていうか人柄とか信頼関係とか、そんなんも含めて菅原カラーになるんですよね」
「まぁ長くやってるからね」
「全国に進めば相手も色んなタイプがいると思います。影山デッキだけでは戦えない場面もあるかもしれません。それに…最近のスガさんの練習見てたら【影山くんと交代する】以外のことも考えてますよね?」
「…ほんとよく見てるね」
俺のこともちゃんと見てって言ったけど
そんな風に見られたら
勘違いしそうになるじゃん
「歩ちゃん…」
俺を見上げる浴衣姿の歩ちゃん
いつもと違って少しお化粧してるのかな
真っ直ぐで吸い込まれそうな瞳
少しずつ彼女に近づいて
「お願い…今日だけ…」
そっと唇を重ねる
「!!!」
「ごめん…今日だけ、恋人ってわけにはいかないかな?」
歩ちゃんはゆっくり僕の胸を両手で押し返す
「…いいですよって言うのは簡単です。でも私…それじゃ嫌です。ちゃんと考えます…一時の感情で適当にしたくないですから」
そういうとこ
ほんと好きだよ
「ごめんね、花火始まる前に変な空気にしちゃったね」
彼女はフルフルと首を振る
間もなく花火が始まったけど
どんなだったかほとんど記憶にない
隣にいる君のことばっかりで
今日は楽しかっただろうか
ちゃんと考えてくれるってことは、即答でごめんなさいではないってことだよね
それとも先輩だから気遣わせてる?
そして花火に照らされる姿
誰にも見せたくない
時が止まればいいのに
本気でそう思った