第3章 春高予選
「何が?」
斜め後ろを歩く彼女の方を振り返る
「利き手じゃない方で手繋ぐ人ってSらしいですよ」
「なにそれ」
「自分は支配されたくないから利き手やない方を相手に差し出して、逆に相手の利き手を封じる的な?」
「ははは…
当たってるかも」
ギュッと左手に力を込めて引き寄せる
「隣歩きなよ」
歩ちゃんは恥ずかしそうな顔をしている
「なんか食べたいものとかある?適当に買って、花火が見えるとこまで行こう」
「花火あるんですか?」
「少しだけどね。今年は部活ばっかで全然夏らしいことしてなくてさ、高校最後の夏だしね」
「わーい!たこ焼き買いましょう」
「出た!関西人!」
俺たちは花火が見える土手に腰を下ろす
まだ花火まで時間があるからか、いい所に場所取りできた
「スガさん、下駄痛くなったりしてません?」
「うん、大丈夫。歩ちゃんは?」
「大丈夫です」
普通こんな時は草履の女の子を心配するんだろうけど、先に言われてしまった
歩ちゃんはいつでもヒトのことをよく見てる
「あ、スガさんせっかく2人とも浴衣やし写真1枚撮りません?」
「いいよ」
彼女がシャッターを押す
スマホのインカメラに映った姿はどう見てもカップル
実際にはそうじゃないだけ
「俺にも送ってね」
「分かりました!送っときますね。妹たちがスガさんのこと見たい見たいってうるさくて」
「たち?」
「2人いるんですよ、中1と中2に。いつの間にかめっちゃマセてて、お姉がデートやとか彼氏おったんかとか…」
「はは、歩ちゃんはお姉ちゃんなんだね。だから何か頼もしいよねいつも」
「そうですか?」
「うん。ついでに少し話してもいい?俺ね、普段は思わないようにしてるんだけど、やっぱふとした時に思うわけ。3年生でレギュラーじゃないのって俺だけなんだって。1年が入ってきてくれたからこそ、今の烏野があるのはもちろん分かってるんだけどね」
先ほどとは打って変わって真剣な眼差しで俺の話を聞いてくれる
そういうとこだよホント
「影山に負けるつもりはないけどね。でもどうしようもない気持ちになることがある。特に俺は進学希望だから受験生なわけじゃん?これは武田先生にも言われたことだけど、みんなが勉強してる間に差はつくよね」