第13章 新たな風
ー歩side
その日の全メニューが終了し、選手はみんなで体育館の片付けを始めた
翔陽と犬岡くんは楽しそうに話しながらモップがけをしている
私は全員分のビブスを集めたカゴを持って、洗濯機のある合宿所と体育館を往復していた
ふと、体育館の端でビブスが入ったカゴを持った音駒のマネージャーがキョロキョロの辺りを見回しているのが目についた
音駒はうちの合宿所ではなく、近くの宿で宿泊するから早く片付けて向かわないといけないはずだ
「あのー、それ貰いますよ」
話しかけると、弾かれたように彼女が振り向く
「え?」
「いや、もう行かないといけないですよね?どうせうちの合宿所で洗濯するから持っていきますよ」
そう言ってカゴに手を伸ばそうとすると、パッと引っ込められた
「結構です、自分で運びます」
明らかに敵意のある目を向けられる
鋭い切長の目で。
なんで?私、初見でこんな嫌われるようなことなんかした?
「え、でも時間…
「まだ大丈夫です、それとも何ですか?仕事出来るアピールですか?そんなに私の仕事取り上げてマウント取りたいんですか?」
「は?別にそんな…
「とにかく、烏野の合宿所にコレ運べばいいんでしょ?」
そう言ってスタスタと歩き出す彼女を呼び止める
「ちょっと待って!そんなつもりで言ったわけじゃないし」
彼女は足を止めて振り返る
「橘さんは色目使って、選手たちと仲良くお話しでもしてたらどうですか?得意ですよね」
そう言うと、薄暗い闇の中に消えていった
は?なんなん、ムカつく
色目使って…っなに?
そんなんしてないし…
そう思いながらも、ある記憶が押し寄せてきた
中学生の頃
男に色目使ってる、媚びてる…そう言われてた記憶
剥き出しの敵意
心臓がバクバクと速くなって息ができなくなる
ッ…ハァハァ…
あ、やばい過呼吸なりそう
目の前がチカチカする
足も縫い付けられたみたいにその場から動けへん
指先が冷たくなって震えてくる
「…さん、橘さんっ」
後ろから肩を掴まれて、ビクッとして振り返る