第13章 新たな風
第一試合は辛うじて烏野が逃げ切った
久しぶりの練習試合、5月の男だらけの体育館は熱気が凄くて顔面から汗が噴き出た
休憩時間に孤爪さんが水道の方に向かうのが見えて、思わず後を追う
孤爪さんは上向きにした蛇口から噴き出る水で顔を洗っていた
僕はその隣に並んで、汗で濡れたタオルを水で濡らして絞る
「お久しぶりですね」
と声をかけると、孤爪さんは目だけで僕を見る
そして蛇口を閉めると、首からかけたタオルで水の滴る顔を拭いた
「そうだね…
どうしたの?おれに何か用?」
「どうしてそう思うんですか?」
「だっておれがココにいるって分かっててきたんでしょ?違う?」
熱のこもらない抑揚のない声で孤爪さんが言う
ほんと…この人…
「じゃあ遠慮なく言わせてもらいます…歩はもう僕のものですから」
そう僕が言うと、孤爪さんは一瞬驚きの色を見せたけれど、またいつもの余裕の表情に戻って…なんだったら少し笑ってるようにすら見える
「僕のもの…ねぇ」
「なんですか?」
「なんなの?月島は歩と結婚でもしたの?違うよね」
結婚?またこの人は突拍子もないことを…
「何言ってるんですか?結婚って…まだ僕たち高校生ですよ」
「ふふっ…じゃあ月島のモノでもなんでもないじゃん」
「は?いや、僕たち付き合ってるんですよ?」
「付き合ってるってだけでしょ?もし…月島から歩を奪ったらおれは誰かに罰せられるわけ?」
挑発するように孤爪さんは笑う
チッ…歩と付き合ってるのは僕なのに、なんでこんなに焦るんだろう
これ以上話していたら孤爪さんのペースになりそうだ
「とにかく…歩があなたのことを好きになることはないんで」
どんどん自分に余裕がなくなっていくのが分かる
一刻も早く立ち去らなければ…
孤爪さんの横を通り過ぎようとすると、彼は薄ら笑みを浮かべていた
体育館に戻る途中、人の気配がして振り返ると赤いジャージを着た女性と目が合った
あれは…音駒のマネージャー?
僕は君に感謝してる、君がマネージャーになってくれたおかげで歩は音駒のマネージャー代理にならなくて済んだから