第12章 移ろう季節
ー白布side
動ける服装に着替えて体育館に向かう
別に橘さんに会いたいとかじゃないし、後輩の面倒みたいわけでもないけど、暇だし…
とか自分に言い聞かせながら渡り廊下を進んだところで、体育館脇の水道に人影が見えた
あれは…橘さん…?
と、その後ろから彼女を抱きしめる背の高い男子
心臓が速くなる
アイツ…
烏野のクソ眼鏡じゃん
何かを言いながら振り向いた彼女に、アイツがキスをしたように見えた
?!
なにしてんだよ、人の高校で…
「チッ…」
俺は踵を返して来た道を戻る
よりによって、あんな性格悪いヤツと付き合ってるとか…
ネチネチネチネチしつこくブロックしてきたアイツと…
君がそんな男の趣味が悪いとは知らなかった
それならいっそ、牛島さんと付き合っててくれた方が諦めもついたのに
そう思いながら心のどこかでは分かってる
春高でのあのクレバーなプレー
ネチネチ執拗なブロックも優秀な選手である証
魅力的なヤツなんだろう
背も高いし顔もいいし…
でも認めたくない
春の嵐のように俺の目の前に現れた君を、奪い去っていったのがアイツだってことを
自室に戻ってベッドに仰向けに倒れ込んだ
視界を机の上にやる
彼女から受け取ったマグボトルを見つめながら、やり場のない気持ちに苛まれた
あの2人は付き合って長いのだろうか
俺は橘さんのことを何も知らない
「歩…」
声に出して呟いてみた
下の名前で呼んだことなんてないのに…
そしてきっとこれからも呼ぶことはないんだろう