第12章 移ろう季節
「はい!これジャージにも制服にも合わせやすいし、いいやつやから厚さもあって勝手に重宝してます!春高にも連れて行きましたよ」
橘さんはニコニコしながら言う
「そっか、そんなに気に入ってくれたならあげた甲斐があったよ」
「ありがとうございます!白布さんってオシャレさんなんですね、今日着てるのも可愛いです」
ッッツ…
唐突に褒められて狼狽える
嬉しいけど…別に気合い入れてたわけじゃないし、君に会うって分かってたらもっと洒落こんだのに
「…ありがと」
「あ、で、これ肝心のお礼なんですけど、何がいいか分からんくて」
そう言って彼女がラッピングされた包みを取り出し、俺に手渡してきた
受け取ると、案外重みがあった
「これ…いいの?貰って」
「はい、気に入って貰えるか分かりませんけど」
「開けていい?」
「もちろんです」
俺は縛ってあるリボンを解き、手をを突っ込んで中身を取り出すと、水筒のようなものが入っていた
「…水筒?」
「はい、サーモスのマグボトルなんですけど」
薄い紫色なのは、白鳥沢のチームカラーを意識してくれたのか
そしてよく見ると、紫のボトルに白でバレーボールが刻印されている
「え、すごい!ボール描いてるじゃん」
「そうなんです!可愛くないですか?水筒だったら使えるしと思ったんですけど」
「ありがとう、すげー嬉しい」
「本当ですか?牛島さんの等身大パネルとどっちが嬉しいですか?」
「わー、それも捨てがたいな…って冗談、本当嬉しい。大事にするよ」
親切心と少しの下心であげたパーカーを、今も大事に愛用してくれていて、しかもこんなに嬉しいお返しまで貰って…本当は叫び出したいくらい嬉しかった
でも俺は…彼女と学校も違えば、連絡先も知らない
これ以上の展開は、踏み出さなければ掴めない
「あのさ…」
ザザザザザーッ
突如春の嵐が吹き荒れ、木々が揺れる音に俺の声は掻き消される
「そろそろみんな集まると思うんで行きますね!良かったら白布さんも、顔出してください!」
そう言って彼女は手を振り、去っていった
今日会わなければ、自分の気持ちを自覚することもなかったかもしれない
春の嵐のように現れた彼女への気持ちを。