第12章 移ろう季節
寮と食堂がある建物を繋ぐ中庭に向かうと、黒いジャージの上に見覚えのあるグレーのパーカーを羽織った女の子がベンチに腰をかけていた
心臓が高鳴る
なんて声をかけようか、逡巡していると、彼女と目が合ってしまった
「あ、白布さーーん!」
彼女は屈託のない笑みを浮かべながら手を振ってくれる
髪が伸びたせいだろうか、3ヶ月ぶりに見る彼女はなんだか少し女性らしくなっていて、ドキリとする
ゆっくりと近づいていって、努めて平静を装って声をかけた
「久しぶり、元気にしてた?」
「はい、白布さんは牛島さんロス大丈夫ですか?」
橘さんはイタズラっぽく笑う
「大丈夫じゃないね」
「でしょうね、3年生って本当偉大ですよね…あと2年して自分があんな風になるとか考えられませんもん」
「そんなの俺なんて生まれ変わったとしても、牛島さんにはなれないよ」
「それはまぁ…みんなそうでしょうね、あの人は唯一無二ですから」
「だよね」
顔を見合わせて笑う
「で、ウチの1年のヤツが君が俺のことを探してるって聞いたんだけど」
「そうですそうです、その節はありがとうございました」
そう言って彼女は深々とお辞儀をする
「なに?」
「なにって…前回の合宿で私が体調悪くなった時に介抱して下さったじゃないですか」
「わざわざそのお礼言いに?」
「はい、介抱だけじゃなくてコレ…こんな高いものって知らずに貰っちゃったんで、何かお返しをと思って」
そう言いながら彼女は着ているパーカーの襟元を掴む
こんな高いものっていうのは、このパーカーのことを言ってるんだろう
確かにこれはある程度いい値段したし、気に入って愛用していたけれど、今こうして橘さんが着てくれてるのであれば、安いものだと思った
「いいのに、そんな」
「だってあの時、またどっかで会ったら、そん時お礼してよって言ってたじゃないですか!だから会いに来ました」
ばーか…
そんな眩しい笑顔でコッチ見んなよ
勘違いするじゃん
「冗談だったのに。あげたんだから気にしなくていいよ、ってか普段も着てるの?」