第12章 移ろう季節
「え、いや…そんなつもりは」
慌てる五色
「まーいいや、暇だったらテキトーに顔出すわ」
そう言ってテーブルにトレイを置いた
平静を装ってカレーうどんをかき込むけれど、内心気が気じゃなかった
あの子がウチにくるかもしれない
来たところで俺のことなんて覚えてるのかも分かんないけど…
そう思いながらも、あの時この食堂で彼女と過ごした数十分が思い起こされた
握った掌の柔らかい感触が今も忘れられない
1年生たちは、他校の生徒たちが来るということもあり、準備をするために慌ただしく食堂を出て行ったけれど
俺は何となく自室に戻る気になれずに、食堂の窓から外を茫と眺めていた
と、去って行ったはずの1年生の1人が戻ってきて声をかけてきた
「白布さん」
「…なに?」
「なんか、烏野のマネージャーの女の子が白布さんを探してるんですけど…ここに連れてきていいですか?」
と言う
?
え?
橘さんが俺を探してる?
いや、落ち着けまだ橘さんと決まったわけじゃない
でも彼女以外に烏野のマネージャーに知り合いはいないし…
「あ、食堂人多いから他校の生徒は目立つし、中庭で待つように言ってくれる?」
「分かりました、白布さん…姐さ…橘さんと知り合いなんですか?」
「…あ、まぁ」
「だって、橘さんが着てるあのグレーのパーカー、白布さんも着てましたよね?オソロですか?」
もしかして、俺があげたパーカーを今もまだずっと着てくれているの?…今日も…
「いや、あげた」
「え?!あげた?!もしかして…白布さん、橘さんと付き合ってるんですか?」
「いや…違うけど」
否定の言葉を口にすると、胸の奥がズキリと痛んだ
それでも彼女は俺を探している
俺があげたパーカーを着て
今はそれだけで充分だった