第12章 移ろう季節
みんなでBBQをしてる最中、歩がヒョコッと立ち上がって網の前に行くと
「なぁ父ちゃん、この焼きおにぎりちょうだい」
と俺が作った握り飯を指差した
俺が握った握り飯を受け取った歩は、ふーふーと息をかけて冷ましながら、それにかぶりついて
「うっまぁぁぁ!このおにぎり中に味噌入ってる!なんなんこれ、宮のおばちゃんが作ったん?!」
と目を輝かせる
「そんなに?歩ちゃん、実はそれ治が作ったんよ」
「え?!まじで?!治天才やん!おにぎり屋さん出来るわ!」
と言って、あっという間に平らげるとおかわりをせがんだ
「あかんぞ治!俺らは大人んなっても、バレーボールすんねんから!」
侑が間に割って入ってくる
「別にバレーボールしながらおにぎり屋さんやったらええやん」
歩も負けじと言い返す
「ほな歩は隣でケーキ屋さんしたらええやん」
と言うと、歩はそうする!と言って笑った
夏の太陽を浴びてキラキラと輝く湖面
それに歩が熱々の焼きおにぎりをハフハフしながら頬張る姿
俺にとってはまるで昨日のことのように鮮明に思い出されるけど、歩はこん時のこと、覚えてるんやろうか
「で、治は自分の店持つ…とか考えてるん?」
歩が言う
「…せやなぁ、ゆくゆくは自分の店持つってのが目標やなぁ」
そう答えると少し間があって、歩は
「治は凄いなぁ」
と呟いた
何かを含んだような言い方をする歩
「なんや、何が凄いねん」
「治も侑も凄い、自分がやりたいことちゃんとやりたいって言えて、その道に進むって決めたこと自体が」
「そんなんツムはバレーが好きで、俺はそれより飯が好きやってそれだけやん」
「それが中々できひんことやん、好きなことを仕事にするって案外勇気いると思う」
「なんや…歩なんか迷うてるんか?」
「迷ってるというより漠然と不安なんかもしれん。料理は好きやけど、それを仕事にするのがいいのかとか…ほんまはずっとバレーやってるみんなの傍におりたいけど、大人になったらそれも難しいやろーし…」