第12章 移ろう季節
ー宮治side
歩にだけは伝えておきたかった
俺が飯に関わる仕事したいって思ったきっかけであるアイツにだけには…
物心ついた時には毎年、歩はバレンタインに歩の母ちゃんと一緒に作った手作りのチョコをくれとった
そやのにある年、学校帰りに市販で買うたチョコを渡された
別に歩から貰えるなら、手作りやろーが買うたもんやろーがどっちでも良かったけど、俺はそん時の歩の様子が気になった
目も腫れてる気がするし、もしかして泣いてたんか?
歩からチョコ貰って喜んでる侑を家に置いて、俺はこっそりアイツの家に行った
インターホンを鳴らすと歩の母ちゃんが出てきた
「ああ、治くん…どないしたん?」
「おばちゃん、なんか歩の様子が変やったんやけど、なんかあったん?」
俺が訊くとおばちゃんは驚いた顔をして、それからその場にしゃがんで俺と目線を合わせながら
「気づいてくれたん?実はな、あの子昨日の夜侑くんと治くんに自分1人でチョコ作るんやって張り切って、私に手伝うなって言うたんやけど結局…失敗してしもてな」
と教えてくれた
「…そやったん」
「侑と治に美味しいチョコあげて、褒めてほしかったのにってポロポロ涙流してなぁ…」
俺は居ても立っても居られず、家ん中に入れて貰ってアイツが俺のために作ってくれたチョコがかかったクッキーを食べた
それから今日までアイツは色んなものを作ってくれたけど、何故か最初に食べたあのクッキーをいつまでも忘れられへん
飯は身体を作る
それと同じように飯を作ってくれる人間の気持ちは、食べた人間の心を満たしてくれるんやって俺はあん時歩に教えてもらった
それを知った俺は、俺も歩のために作ったものを彼女に食うてほしいって思うようになった
次の夏、毎年恒例の宮家と橘家で琵琶湖にキャンプに行った時、オカンに頼んで俺も材料の準備を手伝った
手伝ったゆーてもBBQやし、小学生の男子が作れるもんなんか知れたるけど、俺は歩を思いながら握り飯を握った