第12章 移ろう季節
私も今治に聞かされるまで、当然ツインズはこのままずっとバレーを続けていくもんやと思ってた
それぞれの人達にそれぞれの人生があって、みんなが必ずしもバレーボールを続けるわけではないってのは分かっていても、治がそんなことを言い出すとは全く思ってなかった
「…俺な、ずっと飯に関わる仕事したいと思ってたんや」
そう治が言って、思い出したことがある
そう言えば…私が料理作るの好きになったきっかけって…
もしかしたら治やったんかもしれん
あれは初めて1人でバレンタインのチョコを手作りした時のこと…多分小学校の2.3年生やったと思う
それまでは母ちゃんと一緒に作ってたけど、その年は母ちゃんが止めるのも聞かず、1人で作るんやって意地になってた
侑と治に、どや!これ私が1人で作ったんやでって言いたかったんかもしれん
そんで褒めて欲しかったんやろ…歩凄いな!って
クッキーにチョコをかけた何かをあげようとしてたんやろうけど、結果クッキーは黒焦げ+生焼け、チョコは湯煎失敗してお湯がチョコん中に流れ込むという有様で、とても人にあげられるようなもんじゃなかった
泣きながら母ちゃんに頼んで、市販のチョコを買ってきてもらってとりあえず学校で渡したけど、治はそん時の私の態度がおかしかったってゆーて、家まで訪ねてきた
ー当時
リビングのソファに座ってるとチャイムが鳴って、母ちゃんが出て行って…
そんで何故か治を連れて戻ってきた
「治…どしたん?」
「お前なんか隠してるやろ?」
「何も隠してないわ」
「ほんまは俺らに手作りのチョコ用意してくれてたんちゃうんか?」
絶対母ちゃんが昨日のこと言うたに違いない
私は観念して正直に答える
「…失敗したんやもん」
「失敗してもくれたらええやん」
「あげられるわけないやん、あんなん」
「おばちゃん、まだどっかに置いてあるんやろ?」
治は母ちゃんに向かって訊く
「ああ、うん…カウンターの上に」
それを聞いた治は、キッチンの方に進んで行ってラップがかけてある皿を運んできた
「食うてもええか?」
「ええけど…不味すぎて吐かんといてや」
「誰が吐くか、歩が俺のために作ってくれたんやろ?」
そう言って治は出来損ないのクッキーを口に放り込んだ