第12章 移ろう季節
終業式の前日
明日の白鳥沢での集まりに向けて、冷蔵庫の中で冷やし固めておいた塩キャラメルをカットしていると、携帯が鳴った
カウンターの上に置いてある携帯をヒョコッと覗いたふたばが、なぜか微妙な表情になる
「…なに?誰から?」
と訊くと
「…治」
と言って、着信の画面を私に見せてくる
そこには『宮 治』と表示されていた
ふたばは確かに治に懐いてたけど、それは現在進行形なんか
もしかしてヤキモチ妬いてんのかな?あらぬ誤解を避けるために、私はその場で電話に出た
「もしもし、どーしたん?」
「おお、歩久しぶりやな、元気しとったか」
「うん、治は?」
「おお、ボチボチや」
治とは年末に兵庫に帰った時に会うてるし、その後春高でも会った
そっから2ヶ月あまりが経つけど、たまにLINEすることはあっても電話が来るのは珍しい
「ほんでどないしたん?」
「ああ、なんやその…一応歩にも言うとこかなと思って」
「何を?彼女でも出来たん?」
「出来てへんわ、って悲しいこと言わすなや!」
「何でよ、治ほどともなったらモテてモテてしゃーないやろ、春高ん時も人気やばかったし、そうそう、コッチで試合見てた同級生も治派か侑派かって…
「歩、そんなんほんまに好きな女にモテんかったら意味ないの分かってるやろ」
「…まぁそやな」
ほんまに好きな女
そーいえば治からそーゆー話は聞いたことない
小さい頃からずっとずっと一緒にいて、私は侑のことが好きやったし、それを治は知ってたけど、治が好きな女の子とか彼女とかについて教えてくれたことはなかった
でも今の話ぶりからして、治にもちゃんと好きな女の子がいるんやろ
どんな子なんやろ、見てみたいなぁ
「…歩、おい歩聞いてるか?」
「あ、ごめんごめん、なんて?」
「だから…俺高校でバレーやめるって」
「え?!?!?!何急に!!!!!?!」
「いや、さっきから言うてたやん」
「え?!ほんまに言うてるん?!」
「おお、ほんまや」
「侑は…なんて?」
「取っ組み合いの大喧嘩になった」
「やろうな」