第12章 移ろう季節
私は電車に揺られながら、そう言えば仙台の方に新しい輸入食品のお店が出来たって、友達が言ってたことを思い出した
珍しい調味料とか無心で眺めたい気分やわ
本格的にIHに向けて練習が始まったら、1人でふらふら買い物とかする時間も無くなるやろうし…
それに今日はなんか疲れた
嫌いじゃない人…むしろスガさんのことも、縁下さんのことも好ましく思ってる
そんな2人をお断りするって思った以上に労力がいるし、本当にこれで良かったんやろかとも思う
重い足取りで階段を上がり、改札でパスケースを翳す
新しく出来たばかりの輸入食品店は平日の午後ということもあって、案外空いていた
細い通路に所狭しと陳列された商品の間を、キョロキョロと見回しながら通る
パッケージに日本語が使われてないってだけでオシャレに見えるのは何故だろう
私はカゴの中にドライフルーツやナッツ、パスタソースなどを放り込みながら、ふとスパイスの棚で足を止めた
「蛍は辛いの食べれるんかな?甘党のイメージやけど…カレーとかスパイスから作ってみよっかな」
以前テレビで、カレールーはあんまり身体によくないっていうのを見た気がするし、蛍が食べられるなら今度スパイスカレーに挑戦してみようか
こないだうちのカレー普通に食べてたから大丈夫か
買い物をする時、料理を作ってあげたいと思う時、蛍の顔が1番に浮かぶ自分に、少しホッとした
私はスマホで調べたスパイスカレーに必要な調味料を買い、まぁまぁな重量になったエコバッグを肩からかけて、店を出た
と、
「歩」
抑揚のない声で、名前を呼ばれて振り返った