第12章 移ろう季節
私がそう言うと、縁下さんは
「そーゆーとこだよ」
と優しく笑った
「でも…」
「橘さんに縛り付けられてるなんて思ってないから大丈夫、それとも迷惑かな?」
「いや、迷惑なんてそんなわけ…」
「だったら、気にしないで
それに…月島が君に相応しくないって思ったら、その時は容赦なく落としに行くから」
あ、またや
春高の時もそうやったけど、いつもと違う縁下さん
ドキッとするような色気のある表情
私は慌てて目を逸らした
「じゃあ、俺は武田先生に部室の見回りの報告してくるよ。また明日」
縁下さんはいつもの縁下さんに戻ると、ひらひらと手を振って職員室の方へ歩いて行った
「はぁ」
結局、縁下さんにはハッキリ言えんかった
その気になれば、迷惑やとか困るとか強い言葉で諦めてもらうことも出来たのに、そうして拒絶することは出来ひんかった
優しい縁下さんやから、私が拒絶すれば潔く手を引いてくれるって分かってんのに強く言えんかった
悪者になりたくないし、自分に好意を持ってくれてる人を無碍に出来ひんくて…
てかほんまにそれだけなん?
スガさん、縁下さん、黒尾さん、赤葦さん、それに影山くん
魅力的な人たちに迫られて、どこかまんざらでも無い自分がいるんちゃうかって
蛍ともし出会ってなければ、誰かとどうこうなってた可能性もないとは言い切れへん
蛍を裏切ることはないし、今私が好きなんは蛍だけやけど、他の異性に好意を向けられて、嬉しくないわけではない
私はズルい
侑のことも結局、決定的に終わりにするのを躊躇って、かなり時間かかって、やっと言えた
「最低すぎる…」
真っ直ぐ家に帰る気になれずに、駅まで自転車を飛ばして
あてもなく電車に乗り込んだ