第12章 移ろう季節
ー歩side
もう私のことなんか何とも思ってないかもしれへんけど、考えると言った手前、スガさんにちゃんと返事をせんとあかん
そう思ってることを蛍にも伝えて、卒業式の後にスガさんを呼び出した
答えを引き伸ばしたあげく断った私に、スガさんは尚も優しく、お気に入りのハンドクリームを渡して去っていった
その包みを握る自分の手から、同じハンドクリームの香りがする
今日ももちろんつけてるから…
少し甘いその香りが鼻腔に広がり、胸がチクリと痛んだ
1人になった私は、縁下さんに頼まれていた女子ロッカーの点検に向かった
潔子さんが使っていたロッカーに私物や忘れ物がないかを確認し、次年度に使えるようにしておいてほしいとのことだった
卒業式でどこの部活も休みな上、やっちゃんも潔子さんもいない
がらんと人気のないロッカールームに入ると、急に寂しさが込み上げてきた
潔子さんが使っていたロッカーを開けて中を点検する
ロッカーの中身は何もなく、拭き掃除をしていってくれたようで埃ひとつなかった
大好きやった3年生
もうここに来ることはない
スガさんのことも…気持ちに応えられないくせに曖昧な態度を取り続けたせいで、余計に傷付けたに違いない
それにそーゆー私の態度が蛍を不安にさせてるかもしれん
私は潔子さんが使っていたロッカーを閉じ、そのまま額をつけて目を閉じた
これからはちゃんと、応えられない気持ちには応えられないってハッキリ言おう
そう思いながらロッカールームを後にした
外に出ると縁下さんがちょうど、部室から出てきて階段を降りる姿が目に入った
縁下さんにも、春高の時に…
真剣に好きだと告白された
申し訳ないなんて思わなくていいって言うてくれた縁下さんに甘えて、こちらもキチンと答えを言わずにズルズルとここまで来てしまっている
「縁下さん」
階段を降りてきた縁下さんに声をかけた