第12章 移ろう季節
卒業式である今日は練習が休みの部活も多く、バレー部もそうだった
通い慣れた体育館の脇まで来たところで歩ちゃんが足を止める
彼女は制服の上にグレーのパーカーを羽織っているが、これはそう言えば伊達工と練習試合をして、その後靴を買いに行った時にも着ていた気がする
「スガさん…」
彼女が口を開く
「今まで本当にお世話になりました…そして…ごめんなさい」
「…何謝り?」
「えっと…以前、ちゃんと考えますってスガさんに言ったの…覚えてますか?」
「覚えてるよ」
「その返事をずっと考えて…もしかしたらスガさんはもう私のことなんて何とも思ってないかもしれないですけど、やっぱり卒業の前にちゃんと答えをって…」
「その返事が…ごめんなさいってこと?」
「…ごめんなさい、ちゃんと考えるって言ったのに…」
「いやいや、ちゃんと考えてくれた結果がごめんなさいだったんだろうから、それは仕方ないよ」
「スガさんは優しくて頼りになって…でもそれ以上に思うことは出来ませんでした」
「…そっか、しゃーねーべ」
「私…甘えてたんです、いつまでも返事を待ってくれてるスガさんに決定的なことを言うのが嫌でズルズル…こうして結局卒業の日まで」
「いや、わざわざそうして律儀に言ってくれるところが歩ちゃんらしいよ。言いにくいこと言ってくれてありがとう
…あと、歩ちゃんのことは今でも好きだよ」
さっき彼女はもうなんとも思ってないかもしれないなんて言ったけど、そんなことは全然なくて…
「月島と付き合ってるって知ってんのにな、それでもやっぱ簡単に好きだって気持ちは変えられない」
俺がそう言うと彼女は困った顔をして、黙ってしまった
「でもまぁ今日で卒業だし、俺も前に進むつもりだけどね
だから最後にこれ、受け取ってくれる?」
そう言って右のポケットから包み紙を渡した
「…何ですか?これ」
「言ったでしょ?バレンタインのお返し」
「だからそれはいいって…
「だーめ、俺があげたいの。それに気に入ってくれてるんでしょ?」
以前彼女にあげたハンドクリームの倍の大きさのものを手渡す