第12章 移ろう季節
ー菅原side
小学生の頃なんかは呼びかけだの別れの歌だの、何回も何回も練習した記憶があるけど
高校生ともなれば練習もあっさりとしたもので、なんだか実感もないまま当日を迎えてしまった
ああ、今日が終わればもういよいよココにくることはないんだな
粛々と進められていく式次第
それが自分のためのものなのかもよく分からず、まるで人ごとのように感じられて、俺は右のポケットに手を突っ込んで
空中を茫と見つめていた
第一志望の大学に合格し、4月からはキャンパスライフが始まると言うのに、その希望よりも俺にとってはまだ喪失感の方が大きい
仲間と共にバレーに捧げた3年間、夢にまで見た春高の舞台、もうこんな日々は2度と訪れない
それに多分、人生で初めて1人の女の子をこんな風に本気で好きになった
君はまだあと2年…
俺のいないこの学校で、日々を過ごすのだろう
教室で最後のHRが終わり、他の3年生達と一緒にバレー部の練習で使っていた方の体育館に向かう
そこには縁下を先頭にして1.2年生の部員が全員、もちろん歩ちゃんも…みんなが待っていた
やめろよ
こんなことされたら‥泣けてくるだろ
って思ったけど、縁下が堪えきれずに涙を零すもんだから、逆に冷静になった
そんな縁下の背中を大地がポンポンと叩く
『ありがとうございましたっ!』
縁下の声に続いて、みんなが俺たち4人に向けて感謝の言葉を言ってくれる
それに応えるように精一杯の笑顔で、努めて明るく
一歩を踏み出した
4人で並んで歩いていると、しばらくして後ろから
「スガさんっ」
と俺を呼ぶ声
振り向くとそこには、目を真っ赤にした歩ちゃんが立っていた
俺の気持ちを知ってる大地が、送り出すように俺の背中をトンっと押した
「少し‥いいですか?」
「…うん、俺も…話したいと思ってたから」
ここに来るまでの間に、下の学年の子に話しかけられているクラスメイトの姿を見た
多分雰囲気的に、学ランの第二ボタンを欲しいと言われてるような感じだったけど…きっと君はそうじゃないだろうね