第12章 移ろう季節
ー歩side
勉強会の甲斐あって、翔陽も影山くんも全教科赤点を回避した
とくに影山くんの古文の成績は格段に上がっているらしい
あっという間に季節は移ろい、間もなく3月が訪れようとしていた
「こないだまで、部活終わったら真っ暗やったのに、だいぶ日長くなってきたな」
みんなで帰る帰り道、まだうっすらと明るい空を見上げながら言うと蛍が
「それよりさ…花粉もう飛んでるよね」
と言いながら鼻の下を擦る
「ちょ、言わんといて!意識した途端ムズムズするやん」
「なに?歩も花粉症なの?」
「うん、結構ひどい」
他愛もない話をしながら坂道を下る
みんなのテンションが少し低いのは多分…
今日あった卒業式の練習のせいかもしれない
在校生の私たちの間に作られた花道を神妙な面持ちで歩く3年生
その中にはもちろん、大地さん、スガさん、東峰さん、そして潔子さんの姿があった
見慣れたジャージ姿ではなく、制服姿で私たちの横を通り過ぎていく3年生たちは、どことなくいつもの雰囲気と違っていた
3月になれば卒業
それは分かっていたことやし、もう部活も引退しているのにも関わらず、卒業式の練習というものは、私たちに現実を突きつけてきた
もう、卒業式が終わればこの校舎で3年生たちと会うことはない
もしあの日潔子さんに声をかけられてなかったら、マネージャーをやっていなかったら…
きっとこんな気持ちにはならなかった
それどころか3年生なんて、誰一人名前も顔も知らなかったと思う
会えてよかった
一緒に時間を過ごせてよかった
ありがとうございました
壇上で別れの歌を歌う3年生たちを順に見ながら、心の中で感謝の言葉を唱えた
そんで…卒業式の日
きちんとしなければいけないことがある
今までスガさんの気持ちに甘えて、うやむやにしてきたけど、ちゃんと返事をして
…お別れをしよう