第12章 移ろう季節
ー影山side
「何を堂々と開き直ってるんや!」
橘さんが日向に言い返す
「だって影山もそう思うだろ?!俺らに古文は無理!」
飛び火してきた
確かに…現代文も何言ってんのかサッパリ分からねぇ俺らからすれば、古文なんて雲の上の科目であることは間違いない
「あのなぁ、2人とも古文を難しく考えすぎ!昔の言葉で書いてあっても結局物語なんやから、書いてあることは今も昔もそんな変わらへんねんで?」
「そうなのか?例えば何が書いてあるんだよ?」
「大体惚れた腫れたよ、いつの時代も。特に源氏物語なんて、今風に言えば超女好きのハイスペイケメンが義母から未亡人から人妻から色んな女性と恋愛する話やから」
日向の問いに橘さんが答える
「これ、そんな話なのか?」
「そやで、そう思って読んだらトンチンカンに思える文章も、何となく分かってくるやろ?」
なるほど…そう思うと今まで、謎の暗号にしか思えなかった文章の羅列も意味のあるものに思えてくる
俺はその日、彼女のノートを借りて帰った
彼女のノートには古文の横に今風の言葉で訳されていて、すげぇ分かりやすかった
それに単純に、橘さんの綺麗な字を見ているだけで、何となく満たされていた
そう言えば橘さんは、この時代の人は顔が見えない相手と手紙のやりとりをして、その和歌が素晴らしいとか、字が上手いとかで好きになったりしたと言っていた
もし、俺たちが千年前に出会っていたら
それでも俺は多分
美しい字で書かれた詠を読んで、君のことを好きになっただろう
今の俺の様に
自分で自分を納得させたはずなのに、それでもいざ月島と楽しそうに笑い合う彼女を見ると、心の奥が変な感じになる
これ以上考えてても勉強に身が入らないし…と開いたノートに突っ伏しながら考えていると
〜♪
携帯が鳴った
俺は画面を見て飛び起きた
着信 橘さん
?!
彼女から電話なんて…
「おう」
迷いに迷った末、ぶっきらぼうに電話に出る