第12章 移ろう季節
「え?!ほんま?!俺、歩に似てるかなぁ?!」
嬉しそうに言うお父さんが可愛くて、自然と笑みが溢れる
うちは男兄弟だから分からないけど、娘を持つ父親は娘に似ていると言われると嬉しいものなのだろうか
想像もつかないけど、いつか僕と歩の間に娘が生まれたら…歩が産んでくれた娘が僕に似てたら…
顔がニヤつきそうになって慌てて思考を止めて、窓の外を見た
「蛍くん」
「はい…?」
「ありがとう」
突然お父さんに礼を言われて困惑する
「…なにがですか?」
「歩は、コッチに来てから毎日楽しそうにしてる…それは多分バレー部のみんなと…君がおるからとちがうかな」
「そんな…僕なんて何も」
「いやな…親の転勤で生まれ育った土地を離れさして、また友達やら人間関係も1からになるやろ、ちょっと心配しとったんや」
「歩さんなら、なんの心配もないですよ?6月に転校してきた初日で、すでに僕よりクラスに馴染んでましたからね」
「ハハッ…そうかそうか、それなら良かったわ…でもな、正直兵庫におった時の歩は、親の前で無理に明るくしとった時があったんや」
それは…宮侑と別れた時のことだろうか
「そう…ですか」
「でもな、友達や好きな人のことで娘が悩んでたとしても、男親なんて何もでけへんのや…ただ見てるしか…そん時の歩は辛そうで痛々しかった。そやからな、コッチに来てええ仲間と蛍くんに会えて、毎日歩が楽しそうにしてることに、ほんま感謝してるんや」
ミラー越しにお父さんと目が合う
お父さんは歩そっくりの顔で笑う
「僕は…何もしてません…それどころか、僕の方こそ歩さんに会ったこと、感謝してます…本人の前ではこんなこと恥ずかしくて言えませんけどね」
「俺もや、ほなこれは男同士の秘密っちゅーことで!
あ、お家そろそろこの辺かな?」
「あ、はい…ここで大丈夫です
本当ありがとうございました」
「ええよ、これからも歩のことよろしく頼むわ」
「こちらこそ、おやすみなさい」
そう言って車を降りた