第12章 移ろう季節
歩に背中を押されてリビングの外に出ると、玄関にお父さんが立っていた
お父さんは…歩そっくり
って逆か…
歩がお父さん似ってことで、美形は父親譲りなのだろう
僕たちの親世代だから40代半ばくらいなんだろうけど、もっと若く見えるし、歩のお母さんが言ってたように身長もかなり高い
身を包んでいるスーツも上品で、何もかもが男性として完璧で一瞬怯んだ
「さ、お父ちゃん蛍くん送ってあげて」
「わかった、でも外すごい寒いから歩は家で待ってなさい。蛍くん、家そんな遠くないんやろ?」
「…あ、はい」
「ほな、パッと送ってくるわ。蛍くん行こか」
そう言ってお父さんは先に外に出る
歩は僕を心配そうに見ているけど、すごい寒いと言われた手前、彼女を外に連れ出すことはしたくない
風邪でも引いたら大変だし…
僕は歩が用意してくれたケーキの箱を抱え、意を決して扉を開けてお父さんを追いかけた
歩のお父さんは白いアウディの運転席に乗って待っていた
助手席に乗るのもおかしいし…と思って、後部座席のドアを開け
「お邪魔します」
と言って乗り込む
ほんと気まずい…
でも黙ってるのも良くないし…
「あの…僕、歩さんと…その、お付き合いさせてもらってる…月島蛍と言います。はじめまして」
勇気を振り絞って、お父さんの後ろ姿に話しかけた
するとお父さんは僕の方を一瞬振り返って、また前方に視線を向けると
「はじめまして!ゆっくり顔見て喋りたいのは山々やねんけど、ちゃんと前見て運転せんと、大事な他所さんの息子さん乗せてるから許してな!蛍くんのことは歩から…は、あんまり聞いてへんねんけど、ほかの家族からよく聞いてるで!えらい男前の彼氏歩が連れてきたゆーて!」
早口で捲し立ててきた
呆気にとられながら僕は、この感じ身に覚えがある気がした
そうだ、初めて歩と会った日のことだ
教室に入ってきた彼女はスラッと背が高くて美人で…なのに突然早口の関西弁で自己紹介を初めたっけな
思わず笑みがこぼれる
「ん?どうした?」
「いや…歩さんとお父さん、そっくりだなって思って」