第12章 移ろう季節
妹達に促されダイニングテーブルに着席すると、歩のお母さんがカレーを運んできてくれた
橘家のカレーは具少なめのルーに、素揚げされた色とりどりの野菜がつけ合わされていて、まるでオシャレなカフェで出てくるようなカレーだった
「なんか…すごいオシャレですね、うちのカレーなんてなんかもっとゴロゴロしてます」
「いや、多分蛍くんが来たからやで!うちもいつもはゴロゴロしてる」
歩に似た三女が、コソコソと小さな声で言う
「コラ!みつき!いらんこと言わへんの!」
初めて知ったけど、三女はみつきという名前のようだ
全員のテーブルにカレーが並べられ、みんなが食卓につく
「いただきまーす!」
僕も「いただきます」と手を合わせ、食べ進める
「おいしいです」
「良かったわ〜、てか先月の試合お疲れ様やったね」
お母さんは多分春高のことを言っているのだろう
「ほんま!蛍くん超超大活躍やったな!私がiPhoneからミラリングでテレビに写してあげたねん」
みつきは得意げに言う
「特に稲荷崎戦は、ほんまにドキドキしたわ〜息子みたいに思ってる侑くんやら治くんも応援したかったけど、ここは未来の息子を応援せんと!思ってテレビに齧り付いてたんよ」
「ちょ、母ちゃん!未来の息子とか気早すぎるから!」
隣から歩がツッこむ
未来の息子…
つまり僕と歩がいつか結婚したらって話なんだろうけど、油断したら顔がニヤつきそうになるから、無心でカレーを頬張った
「でもさっきすでにファーストバイトしてたやん」
みつきが言うと、お母さんが
「ファーストバイトてなに?」
と訊ねる
ファーストバイトは結婚式の時に新郎新婦でウエディングケーキを食べさせあう儀式だとみつきが説明して
「新郎側は一生食べるのに困らせない、新婦側は一生美味しいご飯作りますって意味があるらしいで。さっきお姉、蛍くんにめっちゃデカいケーキ突っ込んでたもんな」
次女が続けて答えると、歩は苦笑いしている