第12章 移ろう季節
「あ、はい!めっちゃ愛用してますよ、匂いもいいし、料理する時にも使えるんで…なくなったら次もリピしようと思ってるぐらいです」
「そっか、気に入ってもらえてよかった。それならバレンタインのお礼、それの大きいサイズでもお返ししようかな?」
「そんなっ、わざわざお返しなんていいですよ!それにホワイトデーの頃にはもう、みなさん卒業されてますしね」
ああ、そっか
一ヶ月後俺たちはもう、この制服を着てここにはいないんだ
言葉にされると急に卒業が現実味を帯びる
「それに…本当にお返しなんていいんです!私は3年生の先輩たちに、特にスガさんには一方的にいっぱいお世話になったんで、これはほんのお礼なんです」
そう言ってニコリと笑うと、彼女は小さく手を振って階段の方へと歩いていった
午後の授業はなんだっけかな
もう進路が決まってる人も多く、最近の授業は結構消化試合感が強い
まだ先生が教室に来る気配はない
俺はその場で歩ちゃんに貰った包みを開けて、中に入ってたチョコレートケーキっぽいお菓子を取り出すと、口に放り込んだ
咀嚼すると甘さと苦さが程よいバランスで、今まで食べたどんなお菓子より美味しかった
「甘くてほろ苦い」
てかなんなんだよ
この腕前は
俺の心だけじゃなくて、胃袋までガッチリ掴むのやめてもらっていいかな?
俺はお菓子が入っていた包みを丁寧に折りたたんでポケットにしまうと、教室に戻った
中にいたクラスメイトが
「清水さん、何の用事だったんだ?まさかチョコ…?!」
と寄ってきた
「いや、清水じゃなくて後輩の子から」
「え?!後輩からチョコ?!やるな〜スガ!」
「そんなんじゃないよ、ただの部活の後輩だよ」
「あ、俺その子見たことある!背のスラッと高い美人の子だべ?!」
「まじで?!クソ!スガ羨ましいぜ!」
何も知らないクラスメイト達が、やいのやいのと囃し立てる
本当…そんなんじゃないんだ
彼女にとっては…
こんな胸の痛みも
大学に行って会わなくなれば
自然と消えていくモノなのだろうか