第3章 春高予選
ー歩side
髪をバッサリ切った
それだけのことやけど妙に吹っ切れた
あの日あんなにボロ泣きして、こんなに影山くんのこと好きやったんやって思った
でも、重荷にはならへん
影山くんにはバレーだけ考えててほしい
けど私はマネージャーやめへん
チームのために死力を尽くす
そう思ってたのに、何で?
ツッキーの気持ちを知ってしまった
キスされたり抱きしめられたり、あんなこと言われたら意識してしまうやん
前に潔子さんに
『月島は冗談でそんなことしたわけじゃないと思うから、ちゃんと考えてあげた方がいいと思う』
そう言われたけど、本人にはまだ返事しないでって言われるし
もうどうしたらいいん?
重たい気持ちのまま、東京練習に向かう
今回も出来るだけ音駒のサポートに回る予定で、音駒ベンチに挨拶に行く
「猫又監督、お疲れ様です!今回もよろしくお願いします」
「ああ、橘さん、こちらこそよろしくね。みんな君に会うのを楽しみに毎日頑張っとったよ」
「歩ちゃーん!全然連絡なかったんだけど、俺結構待ってたんだよね」
黒尾さんが後ろから私の肩に手を置く
「あ、黒尾さんお疲れ様です。まじでそれどころじゃなかったんです」
「へぇ〜何があったか知んないけど、それでバッサリいったわけ?」
「歩は俺がショートにしろって言ったからしたんだろ?思ってた通り、そっちのが超似合ってる!」
夜久さんが近づいてくる
「そうですか?ありがとうございます」
「俺はさ、結構長身の女子が好みだったりすんだけど、やっぱ女の子的には自分より背高いヤツがいいんだろうな」
夜久さんはボールをポンポンとアンダーハンドで打ちながら、チラッと私の方を見る
「え、他の女子は知りませんけど、私は身長あんま気にしないですね。むしろ私は昔っからおっきかったんで、男の子達にお前みたいな大女、可愛ないみたいなこと言われたんで。向こうさえ許容してくれれば別に」
私は抱えていたドリンクの一本を夜久さんに差し出す
夜久さんはボールを打つのをやめて左手で抱えて、右手でドリンクを受け取る
「知ってます?人間て本能的に自分と違う遺伝子を求めるらしいですよ。」