第11章 終わりと始まり
ー歩side
急な出来事やったから、私かやっちゃんかどっちが翔陽に付き添うかは正直考えてなくて、とりあえず翔陽の荷物をまとめて、立ちあがろうとしたその時
ふいに左腕を掴まれて振り返ると
ツッキー…
「…いかないで」
ツッキーが小さな声で呟く
私は驚いて目を見開いた
ツッキーが、私を必要としてくれてる
こんな私をまだ、必要やと思ってくれるん?
それと同じように私にもあなたが必要で
これからもずっとずっとバレーボールをするツッキーの隣にいさせてほしいって思うから…
「…ごめん、なんでも…
我に返って、そう言いかけるツッキーに被せるようにして
「やっちゃん!!!」
と叫んだ
私の元に駆け寄ってきたやっちゃんに
「翔陽のこと頼んだで!これ荷物お願い!」
そう言って荷物を渡すと、私はツッキーの方に向き直って、その両手を包んだ
満身創痍のボロボロの大きな手
「どこにも行かへん、ずっと見てる」
この試合が終わっても…ずっと
自分で行くなって言ったくせに、ツッキーは驚いた顔をして、それから少し笑って…コートに戻っていった
試合終盤
翔陽とやっちゃんがいない空間
私が2人の分までこのコートを目に焼き付ける
私たちの春を…
影山くんのサーブ
ここまで来ても威力は衰えない
レシーブするだけでもやっとのボールを鴎台が押し込んでくる
でもここはノヤさんがスーパーレシーブを見せる
そのボールをツッキーが丁寧にトスする
ふわっと高く美しく上がるボールを見て、擬似ユース合宿でつとむんにトスが雑だと怒られていた姿が蘇った
ツッキーは自分が頑張ってることを主張したりせーへんし、飄々としてるから分かりにくいけど、あの美しいトスを上げるためにどれだけ練習したんやろうって思うと、胸がキュッとなる
そのボールを田中さんが3枚ブロックをぶち抜いて相手コートに…
しかし、そこには相手のリベロがいた
リベロが辛うじて返したボールは、ダイレクトで烏野コートに戻る
「チャンスボーール!」
掠れた声で叫ぶ
コート内の全員が助走距離を確保して走り始める
シンクロ攻撃
影山くんのトスはツッキーへ…でも
ツッキーは跳び上がることが出来ず、床に倒れ込んだ
「ツッキー!!!」