第3章 春高予選
「で、今日はスパイ活動しにきたってことでいいよね?」
大王様に訊かれる
「はい」
「1人で来たのか?」
怖い顔やけど、優しく聞いてくれる。大王様に岩ちゃんって呼ばれてる人
「はい」
「すごい度胸だな…誰かに偵察頼まれたとか?」
「違います、私が1人で来ました」
「別にビデオ回してたわけじゃないみたいだし、もう帰してやったらどうですか?」
国見くんが言ってくれる。庇ってくれてるような…自分も帰りたそうな雰囲気を醸し出している
「だめ、いや別に練習見られるのなんて、全然いいんだよ?問題はなんであんな所で泣いてたかってことだよ」
「主旨変わってんだろが、クソカワボケェ」
「女の子が泣いてるのに、このまま帰せないでしょ?岩ちゃん、そんなんだからモテないんだよ」
「まじで泣かす」
「ちょっと、もう僕帰っていいですか?」
「国見ちゃん自由!」
「いこ、遅いから最寄り駅まで送る」
国見くんに促され、私も立ち上がる
青城のメンバーにペコっと一礼をして大きく息を吸い込んだ
「本当に今日はすみませんでした!影山くんの先輩のだいお…及川さんがどんな選手か気になって、見にきてしまいました!それと!私が泣いてたんは失恋したからです!失礼します!」
私は踵を返して校門の方に歩き出した
「ヤバ…なんかグッときたよね?岩ちゃん?」
「うっせぇクソカワ」
「国見くん…ほんまありがとう」
「え、あ、うん。さっきのさ…」
「なに?」
「失恋?うそだよね?失恋して他校の体育館裏で泣いてるとか、なくない?」
「あんねん、それはほんま。なんか誤解されててチームのために動いてたつもりやねんけど、中途半端な気持ちやったら部活やめろ的なことまで言われたわ」
「部活?相手バレー部なの?」
「あ、や、まぁ…」
「ふーん…1人、烏野の1年で他人の気持ちを慮れないヤツを知ってるけど」
「はは、多分当たってる」
「そっか」
「でもな、誤解されてんのはいいけど、私はマネージャー絶対やめへん。みんなで全国行くねん、だから国見くん次に会う時は敵やで」
国見くんは私をチラッと見て笑った
駅に着く
「ほんまにありがとう、国見くんがいてよかった。このタオル洗って返すわ」
「別にいいのに…」
「ほな、またね!」
私は駅の階段を駆け上がった。