第9章 春高!
ー歩side
「それ知ってる、いい匂いのやつだ」
「クラスの子みんな使ってるんですよ〜」
浴室に入ると潔子さんとやっちゃんが洗い場の所で何やら楽しそうに話していた
「なになに?ボディーソープ?」
「あ、歩ちゃんっ!そうそう、すごくいい匂いなの!よかったら歩ちゃんも使う?」
やっちゃんは顔をゴシゴシと泡立てて洗いながら、ボディーソープの容器を手渡してくれる
「ありがとう」
私が容器を受け取ると、やっちゃんはシャワーで顔をザッと流して湯舟に浸かる
「あ、でもさー顔とか身体ってあんまり洗わない方がいいんだってー」
シャワーで泡を流しながら潔子さんが言う
「ええっ?!いつもゴシゴシ洗ってました〜!」
驚いたようにやっちゃんが言う
「じゃあ明日の夜は清水先輩真似して洗ってみます!」
「観察されるのは恥ずかしいなぁ〜」
やっちゃんの宣言に潔子さんが照れる
「ちなみに顔面に、熱湯シャワーぶっかけんのも良くないで」
私が言うと
「え?!そうなの?!さっき言ってよ〜っ!」
と、やっちゃんは口を尖らせた
「私従姉妹が美容関係の仕事してるんですけど、安くてもいいから毎晩パックせぇってうるさいんですよ。ここにも大量に持ってきてるんで、今晩3人でパックしませんか?」
身体を洗いながら言うと、潔子さんは嬉しいと言って喜んでくれた
「てかやっちゃん、こんなええ匂いのボディーソープ持ってきて何か色気付いてるなぁ〜」
やっちゃんの方に振り返ってニヤニヤしながら言うと
「なっ!そっ!色気付いてるなんて!!そんな!!!」
彼女は溺れそうになりながら慌てふためく
「いや動揺しすぎやろ」
潔子さんと顔を見合わせて笑う
「仁花ちゃん…もしかして、誰か部員の中に気になる人でもいるの?」
湯舟に近づきながら潔子さんが言うと
「ちょ!!清水先輩までっ!」
やっちゃんは真っ赤になって湯舟に半分顔を隠す
「あはは、いいな〜青春してるね」
潔子さんはやっちゃんを見ながら微笑む
「潔子さんはどうなんですか?」
「え、私?!」
「例えば…真っ直ぐに好意を伝えられるのって、嬉しかったりしますか?」
「…そうだねぇ…そりゃ、悪い気はしないけど」
遠くを見つめながら答える潔子さんが、誰かを思い浮かべてる気がした