第9章 春高!
ー歩side
その場に茫然と立ち尽くしながら小さくなっていく侑の背中を見ていた
そして侑の姿が見えなくなると頬を涙が一筋伝い、堰を切ったようにとめどなく両目から溢れ出す
私が今まで侑との話し合いを避けてたのはもしかしたら、こうして決定的な別れを言い出す覚悟がなかったからかもしれん
その証拠に今も抱きしめられた侑の腕を振り払うことが出来ひんかった
それだけ私の中で侑はあまりにも大きい存在で…
それに…ああやって手を引っ張られて抱きしめられたんは初めてじゃなかったから
ついあの日のことを思い出してしまった
侑に告白されて付き合うことになったけど、それこそ小さい頃からお風呂も食事も寝泊まりも一緒にしていた相手と…
付き合ったからって急にどう変わるんやろうって思った
そしたら侑がハグしようとか言い出して、お互い慣れてなくてムードも何もあったもんじゃなかったけど
抱き寄せられた侑の胸や腕が案外逞しくて
いつの間にか背も見上げなあかんぐらいで
男の子なんやなって実感してしまったら
恥ずかしくて顔面から火が出そうやった
でも侑の鼓動もめちゃくちゃ速くて、彼は彼なりに緊張してると思ったら愛しくて…もっともっと好きになった
今日やっと気づいた
「侑はちゃんと私を愛してくれてたのに…」
信じられへんかった
許せへんかった
「ごめんな…」
侑が愛してくれたように、私はちゃんと愛せてたやろうか
泣くかもしれんと思ってポケットに入れてたハンカチで顔を拭って、フーッと白い息を吐く
そして侑が帰っていった方を一瞥し
「バイバイ」
独りごちて、宿に向かって足を踏み出した