第9章 春高!
「…いや、ちゃうねんごめん」
「え?」
「勿体無いから」
「勿体無い?」
「…今日侑に好きって言うてもらえて、それに…ギュウまでしてもらえて…そやのに今日1日でキスまでしたら勿体無いやん
幸せすぎておかしなりそうやし、今度にとっとく…」
真っ赤な顔で俯きながら目だけこっちに向けて歩が言う
「なんやそれ、可愛すぎか」
今度のお楽しみ
それも悪くない
こうして俺らの付き合いは始まった
過去に思いを馳せてるうちにホテルに到着した
カードキーを翳して部屋の扉を開けると、同部屋の治がベッドにもたれかかりながら雑誌を読んどった
「俺、先風呂入ったしな」
雑誌に目を落としたまま治が言う
「あ、おお」
「…歩と話でけたんか?」
「…まあな」
「どつかれへんたか?」
「おう」
そこで治は顔をあげて俺の顔を見る
「…何やお前、泣いてたんか?」
「なっ、泣いてへんわ!」
「あっそ…で、お前は納得したん?」
「歩に言われたわ、俺らは2人とも自分の気持ちばっかりで、相手が自分を好きやって気持ちを信じられへんかったんやって」
「…あいつ中々深いこと言うな」
「確かに俺はずっと俺の気持ちだけやった。歩が好きで、歩に夢中なんが怖くて、歩に捨てられんのが不安で、別れた後も歩に話聞いて欲しくて…」
「後半悪役みたいになってたもんな」
「お前やから言うけど…実際、歩が俺んとこに戻ってこんなら、傷つけて俺のこと忘れられへんようにしたろぐらい思ってたからな」
「やばいやんお前」
「けど…今日烏野との試合やって、ああ歩の今の居場所はここなんやって思った。それに…最後にアイツのこと思いっきりギューってしたんやけどな
ダウンがもっこもこで歩の感触も体温もなーんにも伝わってこんかったわ」
あの日と違う感触に
もう俺の歩じゃないんや
そう思い知った
ただ香りだけがあの頃のままで
俺の胸を締め付けた
「ツム…お前歩のこと愛しとったんやな」
そうか
俺は歩をちゃんと愛せてたんか
ほなよかったわ