第9章 春高!
俺は公園を出て1人になると、ポケットに両手を突っ込んで早足でホテルに向かう
「あー寒…くっそ」
天を仰いで左手で目元を押さえる
離れる間際見た歩の顔が焼き付いて離れへん
「クソが…何であんな顔するんや」
あんな…初めて抱きしめた時みたいな、真っ赤な顔
目を瞑ると思い出す
ー中3の春、ある日の放課後
「おい歩、さっきの誰やねん」
教室から出てきた歩を呼び止める
「え?普通にクラスメイトの男の子やけど」
「えらい仲良さそうやったやん」
「そうかな?てか侑何で2年のフロアにいるん?」
「歩が心配やからに決まってるやろ」
「なんそれ、侑はお兄ちゃんかって」
「そう思ってんのか?」
「え?」
「俺のこと兄貴みたいやって思ってんのか?」
そやとしたら傷つく
真面目な顔して訊くと、何でか歩は目を逸らしわざとらしく笑う
「はは、あ、侑が兄貴なわけないやろ、どっちかゆーたら治が兄貴で侑は私より…」
「そーゆーこと訊いてんちゃう、俺はお前のこと妹やなんて思えへん」
「え?」
「好きや、お前のことずっとずっと好きやった」
「…ほんまに言うてる?」
「ほんまや」
「…」
「何で黙んねん」
「だって…私も侑のこと、好き…やから」
「え?」
「え?てなんよ」
「え、だってお前、俺のこと好きやったん?うそや!信じられへん!そんなん言うてあとから冗談とか言うんやろ?!騙されへんぞ!!」
「自分から言うてきたくせに情緒どうなってんねん」
「だって俺なんか治と顔一緒やのに、お前が俺のことだけ好きとかそんなんありえる?!」
「それ自分で言い出したら終わりやろ」
そう言って爆笑する彼女に目を奪われる
ガキの頃から歩の色んな顔見てきた
怒ってる顔、泣いてる顔、焦ってる顔
どんな表情の歩も好きやけど、やっぱりこの笑顔が一番好きや
「…好きや」
「さっきも聞いた」
しばらく沈黙が流れる
「私も好きやで…それに、私には侑と治全然違って見えるけどな」
そう言って微笑む歩
俺はその場でガッツポーズする
「それは…俺と付き合うてくれるってことか?」