第9章 春高!
「…何でや…何でそんなこと言うねん」
「だって私も侑も自分の気持ちばっかりやったやん、自分が相手のことを好きってことだけ主張して、相手が自分を想ってくれてる気持ちは信用出来ひんかったわけやろ?そんな関係長続きするわけないやん」
「ッツ…でもしゃーないやろ、好きなんやから不安になって当たり前やん」
「そうかもしれんけど、少なくとも私は私が侑のことを好きやって思ってた気持ちを全く信用されてなかったことに傷ついたわ。浮気されるよりもっと」
「…ごめん」
「いや、お互い様やで?私だって侑の気持ち、全然信じられへんかったし、今日初めて侑がそんなに私のこと好きでいてくれてたんやって気づいたぐらいやから」
「…結局俺らは自分の方が相手を好きやって思いすぎて、お互いの気持ちを信じられへんかったってことか?」
「そやな、だから侑もあんなことしたんやろ?」
…ぐうの音も出んわ
俺は歩の気持ちを信じることが出来んかった
不安になって疑って焦って…そんで傷つけた
「…今、お前の好きなやつはちゃんとお前の気持ち信じてくれんのか?」
「…さぁ分からん…付き合ってるわけじゃないし…」
付き合ってるわけじゃないって聞いて、心のどっかでホッとしてる自分がいる
「そうか…お前の好きなやつってあの眼鏡やろ」
チラッと歩を見ると、驚いた顔でこっち見とる
「お前…男の趣味悪いな」
「…相変わらずやろ」
「ほんまに」
俺らは顔を見合わせて笑った
「ほなそろそろ、お風呂入らなあかんし戻るわ」
そう言うと歩はベンチから立ち上がった
「昔は一緒に入ったのにな」
「何年前の話してるんよ」
振り返って歩が笑う
俺の大好きやった歩の笑顔
思わず立ち上がって手を伸ばした
「歩、最後に握手しよ」
「握手?…ええけど」
そう言って歩の手が差し出される
ダウンの袖口から伸びるその手を掴んで、グッと引き寄せ抱きしめる
「?!え、ちょ!!…侑、なにす…」
驚く歩をきつくきつく抱きしめて
パッと離れる
「ははっ、ドキっとしたか?冗談や…ほなな」
そう言ってその場に立ち尽くす歩を残して踵を返すと、ヒラヒラと手を振って公園を後にした