第9章 春高!
「?」
「お前、絶対歩泣かすなよ」
そう言って宮侑は去っていった
糖が足りなくて頭がぼんやりする
荷物置き場でユニフォームからジャージに着替えようとした所までは覚えてるけど、それから先は曖昧で
なんか歩の匂いに包まれてる気がするけど、これは夢なのかもしれない
夢だとしても歩に包まれているのならこのままでも…
「ツッキージャージ2枚着てるよ!!」
山口に言われ目を開けると
日向の背中が視界に入る
今日、多分
他人の"その瞬間"を目撃した
春高2日目
日向がもう一段深く
バレーボールにハマった日
「あーっ!それ中に着てんの私のジャージやろ?!」
思考を掻き消すように歩の声がして、1月に半袖の彼女が近づいてくる
歩の匂いに包まれる夢を見てたと思ったら、物理的に彼女のジャージに身を包んでいた
「あ、ごめ…」
「ツッキーがそんなんなるって珍しいなぁ、めっちゃ跳んでたもんな」
僕の前にしゃがんで歩がニコリと笑う
「…糖」
「とう?」
「糖分…」
「ああ、糖分!待ってな、飴ちゃんあったかな…」
そう言いながら歩はズボンのポケットを探って、僕に飴玉を差し出す
自分で開ける元気がないフリをして甘えて口を開けると
「…もうっ」
って言いながら彼女は包みを開け、直接僕の口に飴玉を放り込む
その指を飴玉ごと咥えると歩は驚いた顔をしながら
「ちょ!なっ!何!?公衆の面前で何しだすん?!」
と慌てふためき、僕の口から指を引っこ抜く
「…甘…てか何?公衆の面前じゃなければいいわけ?」
「なっ!またそうゆーこと…
「アレーっ?あんた侑の元カノちゃうの?」
僕たちの会話を遮るように甲高い声がする
声がする方に目をやると、稲荷崎の生徒と思しき女子が数人立っていた
「そうなん?この子侑くんの元カノなん?」
「そやで、ってか侑にフラれて稲荷崎おれんようになって転校したみたいやけど、転校先でも相変わらず男とイチャついてんねんな〜怖いわぁ」
チラリと歩の方を見ると、彼女は見たことないぐらい冷たい目で女生徒を睨みつけるだけで何も言わない
いつもならこんなこと言わせっぱなしじゃないデショ
圧強めで言い返しなよ