第9章 春高！

ー月島side

『烏野の執念が稲荷崎を乱すがー

後衛の宮治が飛び出している？！』


考えろ
考えろ
思考を止めるな

宮侑は誰にあげる？



今まで早いバックアタックはなかった

あってもハッタリみたいなやつだったし

真ん中から２番がきてる

でもレフトからは４番が…



宮侑は当然のように宮治にトスをあげ、気づいた時には宮治の手にボールが吸い込まれていた


チッ

まさかここで双子速攻マイナステンポのバックアタックとは…



が、次の瞬間


宮治の放ったバックアタックは日向と影山のブロックに弾かれ

ボールはゆっくりと弧を描いて稲荷崎コートに転がった



一瞬の静寂の後、ピピーッというゲームセットを告げる笛を皮切りにウワァァァァァと大歓声が起きた



多分みんなが驚いていたけれど

僕らは驚かない

0.1秒が勝負の瞬間に日向・影山だけが

このタイミングの双子の早いバックアタックに唯一１ミリも動揺していなかった

「はやさ」はとても強い武器で

魅力的で格好良くて

それでも無敵なんかじゃないと

他人より少しだけ知っているから



「燥ぎすぎたなぁツム」

「…せやなサム」


ネットの向こうで双子が呟く声がする

本当に厳しい試合だった


宮侑は華やかで強くて…

認めたくはないけど…

歩がこの人を好きになる気持ちも分からなくはない




それでもなんとか彼女を奪われるのだけは阻止できた

安堵感からドッと疲労が押し寄せる



床に転がる日向と影山はどっちがブロックしたかを巡って喧嘩を始める

うそデショ

この状況でまだ喧嘩する元気残ってるとか本当バケモンじゃないの



『優勝候補の一角、宮兄弟擁する稲荷崎高校初戦で沈む…！
春高２日目、早くも今大会最大級の波乱です！』


僕たちは整列してネット越しに稲荷崎の選手と握手をする



「じゃあまたな飛雄くん」

宮侑が影山に声をかける

「あハイ」


「翔陽くん」

「…ハイ？」

「俺はいつかアンタにトスをあげるで」

そう言って宮侑は日向を指さす


「でもその前にＩＨで潰したるから覚悟しときや」

僕たちに背を向けながら言うその声にゾクリとする


「ちなみに眼鏡」

？…僕か？

「歩を傷つけたら許さんとかゆーてたけど、こっちのセリフや」