第9章 春高!
「…要約すると、ファーストタッチを高くあげることで自分だけじゃなくて味方にも余裕が生まれて、攻撃のバリエーションも増えるから2VS2で有利やと…」
「言語化してくれてありがとう」
「でもさ…それって人数少ない上に、不慣れなチームで不慣れな人間がセットアップする2VS2では有効やと思うけど、普通の試合でも通用するかな?例えばうちみたいな精密機械の影山ジャパンに、余裕のある高いレシーブなんて必要なんやろか」
「…分からん、でもさっきの百沢のプレー見たらさ…余裕持って高くボールをあげると、明らかに何か色々出来る!ってなって…楽していくって結構大事なんだなって思ったぞ」
「そっか〜まぁ確かに、長くて苦しいラリーが続いたりするとどんどんテンポ早くなっていってしまうからな…楽するっていうのを頭の片隅に置いておくのは大事かもしれん」
「そう!そういうことです!」
「てか翔陽…短期間でよくこんだけ色んなことに気づけるようになったな」
「お前に素直に褒められると照れるじゃん。俺、今までボールばっか追いかけてたけど、強い奴が何で強いかって考えるの結構楽しいな」
そう言って屈託なく笑った翔陽
あの合宿無駄じゃなかった
何一つ無駄じゃなかった
あの日あの場所にいた全員が翔陽の糧となり、翼になった
そう思ったら涙が止まらなくなった
隣を見るとやっちゃんもゴシゴシと目元を擦ってる
人生の中でそう多くないと思う、悲しくも辛くもないのに涙が止まらないということ
…ただ激しく心が揺さぶられ、込み上げてくるものを抑えきれない
ラスト一点
稲荷崎のただでは通さんという圧が目に見える
田中さんのスパイクはブロックされ、辛うじて影山くんが触ったボールを必死でツッキーが追いかける
あんな風に泥臭くフロアに飛び込む彼を見たことなくて
こんな風にツッキーを必死にさせるバレーボール
少し妬けるわ
ツッキーの手に触れたボールを大地さんが返すけど、向こうのチャンスボールになる
侑が当たり前のようにセットした先は
後衛にいたはずの治…
まさか、ここにきて
…マイナステンポのバックアタック…