第9章 春高!
侑が飛び上がり、ファーストタッチをそのままセットする
「また…」
『これは宮侑、またもファーストタッチをそのままセットしたー?!宮治も待っている!!』
治の手にボールが届く瞬間、ツッキーが素早く反応して治の前に飛び上がる
3セット目になっても集中が途切れないプレーにゾクリとする
ホッとしたのも束の間、治がスパイクモーションからまさかのセット?!
『宮治、自分にセットされたボールを再びセット?!
完全にフラれた、烏野ブロック!』
してやったり、侑が満面の笑みで笑う
治がセットしたボールを、後ろから走り込んできたアラン君が捉える
万事休す
息をするのも忘れてコートの状況を必死に追いかける
アラン君が放ったスパイクは…
翔陽の腕の中
少し重心をずらしながら身体全体でボールの勢いをいなして、レシーブされたボールは高く舞い上がる
「…かんぺき」
思わず呟く
そして…
「ナイスレシーブ」
影山君の声がした気がして、涙が溢れる
2人と出会った日が、初めて変人速攻を見た日が、合宿で磨き合った日が、取っ組み合いの喧嘩をした日が、新変人速攻が完成した日が、そして…
擬似ユース合宿で沢山のライバルから刺激を受けた日々が走馬灯のように次々と思い出される
アラン君が放ったスパイクを翔陽が完璧にレシーブした数秒の出来事
観客には伝わってないかもしれんけど、私たちにはその瞬間がスローモーションに見えた
「カ ウ ン タァァァ!!!」
ベンチからの叫び声がして、全員が助走に入る
シンクロ攻撃
東峰さんのスパイクから始まった激しく長いラリー
これを制した方に追い風が吹くと思うと、応援にも熱が入る
「ナイスキー!」
横でやっちゃんが叫ぶけど、田中さんが放ったボールはリベロの赤木さんが足先で繋ぐ
どっちも首の皮一枚
そしてこういう時に得点になるのは必ずしも劇的なプレーとは限らない
ギリギリの所で侑が返したボールが運悪くネットに触れて、烏野コートに零れ落ちた
烏野2回目のタイムアウト
気力だけで動いていたみんなに、途端長いラリーで蓄積された疲労が押し寄せる
誰の表情にも笑顔はない
こんな時何て声をかければ…