第9章 春高!
ー宮侑side
長く苦しいラリーに耐えたのに渾身の二撃を返されて、さすがに心折れたやろ
そう思いながら烏野ベンチを見ると
「見たかよ?!さっきのおれのレシーブ!」
重苦しい空気なんかお構いなしに、翔陽くんが飛雄くんに言う
「見てない…」
「ウッッソつけ!!!?さっきナイスレシーブって言ったの聞いてっからな?!じゃあ…
次とるやつ見てろっ!」
そう言って翔陽くんは眩しい笑顔でコートを指差す
3セット目も終盤、劣勢で…なんでそんな風でいられるんや
「飯食うとるみたい」
治が呟く
「?何やねんお前さっきから試合中に飯のこと考えよって」
「焼き肉とか腹一杯食うて気持ち悪なって「もう当分ええわ」って思てても、次の日にはもう食いたなっとるやん」
「…いや俺は焼き肉の次やったらカレーか寿司がええ」
「毎日何回も飯食うのにすぐ腹は減って、飯にありつく度幸せやって思うし、何回繰り返したってその幸せの度合いが下がる事ってないやんか」
「ああ、お前飯が何でも「生きててよかった」みたいな顔して食うとるもんな」
「…あいつそれやねん
飯食うみたいにバレーしよる」
ピーッと笛の音がしてタイムアウトが終わる
治は歩きながら
「…ツム知っとるか?腹減ってる時に何かひと口食うとな、もっと腹減ってくんねん」
って言うてくる
ああ、そんなん分かるわ
人間てのは強欲で、ひと口だけって思っとっても、気づけば皿が空になるまで貪り尽しとるもんや
バレーや飯に限らん
ここに来るまで俺はもっかい歩に会うて、最後に1回でええから声が聞きたいって思っとった
でも本人に会っていざ声を聞いてしもたら…
触れたい、最後なんて嫌や、全部俺のもんにしたいって思ってしもた
まぁそれも勝たんと叶わんけど…
タイムアウト以降、烏野の雰囲気が変わった気がした
なるほどな
うまそうに喰うとるやつ見とると、周りもみんな腹減ってくんねん
突き放しても突き放しても食らい付いてきて、中々点差が縮まらん
ここで向こうのエース、侍のサーブ
轟音と共にコッチのコートの際どいとこにぶち込まれる
烏野侍多分最初は8割くらいの力から徐々に威力を上げていき、終盤も終盤で「全力」に照準合わせてきよったんか
「腹減るなぁサム」
「せやなぁツム」