第9章 春高!
「ヨッシャー!」
烏野サイドが歓喜に沸き、ノヤさんと東峰さんはドーンと胸をぶつけ合う
そして…ノヤさんは木下さんを指差すと渾身のガッツポーズをして、木下さんもガッツポーズで応える
その様子を見たやっちゃんが、両手で口を覆ってポロポロと涙を流す
「えっ、やっちゃんどうしたん?!」
「…歩ちゃん達が白鳥沢に合宿行ってる間、サーブ練してたって言ってたじゃない?木下と西谷さん、毎日毎日遅くまで残って練習してたんだ」
「確かに、合宿戻ってきてからも見た気がする」
「山口くんとも話してたけど、木下さんのサーブって西谷さんが取れないぐらい凄いんだよ」
「そうなんや」
「でもさっき木下さんがピンサーで出てきた時、あっという間にローテが回っちゃって、木下さん凄い悔しそうな顔してて…私も胸がキュッてなった」
「いきなり出てきて普段通り…ってわけには中々いかへんこともあるしな」
「さっきのタイムアウトの時木下さんがね、俺も活躍できるって勘違いしてたって…凄く苦しそうに言ったんだ。でも、今の木下さんと西谷さんを見て思ったの。自分自身が特別な人間じゃないって思ってるだけで、本当はみんな誰かのヒーローなんじゃないかなって」
「じゃあ木下さんはノヤさんのヒーローやな」
「そうだね」
私も直接コートでプレーするわけじゃないけど、誰かにとっての…出来ればツッキーの心の支えでありたいと思う
稲荷崎コートに目をやると、低いレシーブをセットしようと侑がボール下に入る
あの低さやったら普通アンダーで捌くとこやけど
侑は片膝を折るようにしてボールの下に入り、オーバーでセットしてそのボールを治が決める
満足そうに笑う侑
ゾクリ…
思い出した
「侑ってあんまりアンダー使わへんよな?」
「俺はセッターやからな。腕は2本やけど指は10本やろ?よりいっぱいのモンで支えたんねん」
いつやったか、そう言って笑った顔
いつも軽口ばっか言うてヘラヘラしてるくせに
バレーになると驚くほどストイックでゾクっとするほど集中する姿
バレーを誰よりも愛してて、愛するが故に周りと衝突する姿
でもスパイカーに対して誰より真摯で献身的な姿
私はこーゆーとこが好きやった
この人が…侑のことが好きやった
めっちゃ好きやった
そう思ったら自然と涙が溢れてきた