第9章 春高!
「それってどう言う…」
「稲荷崎ってな、見たらわかると思うんやけど、クセが凄いんよ」
「…確かに自由奔放な感じはするね」
「公式戦で初見の速攻やってみたり…とりあえず宮兄弟はすぐ調子乗るし自由すぎんねん、それでいて負けず嫌いで熱くなるし」
「よく分かってるね」
「長い付き合いやからな…あと、角名さんは勝ってるとすぐサボろうとするし…そういうのが悪い方に転がって、たまにボロ負けする時とかがあるねん」
「…なるほど」
「その空気をピリッと締めるのが北さんやねん、北さん個人がめっちゃ凄いプレーヤーってわけではないけど、北さんがおるのとおらんのとでは稲荷崎は全然ちゃう」
その証拠に北さんが入ってから、烏野は決まるはずのスパイクが決まらない
点差が縮まらない
ピンサーで入った山口くんのジャンフロも北さんには拾われる
そして…気付けば稲荷崎のセットポイント
「確かに…向こうのキャプテンが入ってから空気凄い変わったね」
「…北さん、圧ヤバいからな」
「歩ちゃんが言うほど?!」
「こら」
セットポイント
銀島さんの容赦ないサーブ
辛うじて田中さんが拾うけど
角名さんの爆裂体幹スパイクで2セット目は稲荷崎に奪われた
これでセットカウントは1:1
勝負は3セット目にもつれ込む
私とやっちゃんはみんなの所に駆け寄り、ドリンクやタオルを配りながら選手たちの様子を伺う
2セット目の終盤からの嫌な空気をここで絶っておかないと…
でもその心配は杞憂に変わった
東峰さんがノヤさんに
「Aパスなんかなくても俺が決めてやる」
と胸を叩いて言う
東峰さんは身体と顔に似つかわしくない、ガラスのメンタルの持ち主やけど、こういう時は本当頼りになる正真正銘のエース
第3セットが始まり、有言実行
東峰さんは渾身の力でスパイクを放ち、ブロックアウトさせる
「ねぇ歩ちゃん」
「ん?」
「向こうの10番の体幹の人さ」
「体幹の人(笑)角名さん?」
「うん、相変わらずブロックには全然捕まってくれないけど段々レシーブ出来る様になってきたね」
「ツッキーの勝ちやな」
「月島君の勝ち?」
「うん、昨日作戦会議の時コーチが言ってたやん?」