第9章 春高!
ー縁下side
「アイツほんとなんなの、すっげぇな!」
田中のプレーを見て思わずそう言った
今日ほとんど活躍がなくて、普通だったら諦めてダメになりそうな場面
相手がどれだけ強くてもどんなに打ちのめされようとも、ただひたすら真っ直ぐ立ち向かう
正直2年の中で一度も部から離脱せずに居続けたのは田中だけだ
西谷は東峰さんとの一件で一時部活に来なかったし、木下、成田、俺の三人は一度部から逃げ出した経験がある
どんな逆境にも負けないメンタル
それが田中の良いところで、それは恋愛においてもそうで、清水先輩にどれだけ冷たくあしらわれても、真っ直ぐひたすら一途に想い続けている
もはやそのことを周りはネタにしてるけど、田中の気持ちが至って真剣なものだということを俺はよく分かってる
一途で真っ直ぐなその姿勢は羨ましくて眩しくて
感化されて俺は昨日橘さんに告白した
彼女の気持ちが俺にないことは分かっていたけど、それでも伝えずにいられなかった
ー昨晩
橘さんを送って部屋に戻る途中
「はぁ…俺も外の空気でも吸うか」
宿の扉を開けると、すぐそこに田中が立っていた
「うぉっ…縁下、びっくりした…どーしたんだよ?」
「俺、今橘さんに告白してきた」
「そうか…って、え?!こくこくこ…告白?!縁下が?!橘に?!」
「ああ」
「…で、橘は何て?」
「返事は聞いてない」
「…いいえじゃなかったのか、俺よりマシじゃねぇか」
「…いや、結局俺は臆病だから返事が怖くて聞けなかっただけだよ。それに彼女の気持ちが俺にないってことぐらいは分かってるし」
「そっか…てか悪かったな、お前が橘のこと好きだなんて知らなかったからよ、俺はてっきりアイツは月島と付き合ってるんだと思ってたし」
「実際、お互い好きなんだとは思うよ」
「それ分かってて、お前も好きを抑えられなかったんだな」
「田中の影響かな」
「ハハッ…好きな気持ちもそうだけど、俺はこうって思ったら簡単に諦めらんねぇし諦め方も知らねぇ、バカみたいだけどな」
そう言って笑う
「いや…すげぇよお前は」