第9章 春高!
「きれいごとに聞こえるかもしれないけど、俺は橘さんが幸せならそれが一番だと思ってるから。そりゃ隣にいるのが俺だったらいいのになとは思うけどね」
「…私なんて、縁下さんにそこまで思ってもらえるような人間じゃないです」
「そんなことないよ、少なくとも俺は橘さんがいたから春高の予選、キャプテンの代役で試合に出場した時にも何とか持ち堪えられたんだから」
そんな風に思ってもらえて本当に嬉しい
でも…縁下さんの気持ちに応えられないことが申し訳ない
「やだな、そんな顔させるために告白したんじゃないよ。もしかして俺に申し訳ないとか思ってる?そんなこと思わなくていいから」
「え?」
「言ったでしょ?諦めらんないって。橘さんが幸せならそれでいいけど、もし今後月島が君に辛い思いや悲しい思いをさせたら、その時は容赦なく奪いに行くから」
縁下さんはワントーン低い声で静かにそう言うと、いつもの優しい表情に戻って
「おやすみ」
と私の頭をポンと叩いて、自分の部屋へと戻っていった
は!田中さんが一途で不器用やけどメンタル強くてカッコいい話をやっちゃんにしようと思ってたはずやのに、縁下さんに告白されたことを思い出して、違う違う!と頭を振る
「で、田中さんの何がかっこよか…
やっちゃんが私にそう問いかけた瞬間、影山くんから上がったトスを田中さんが超インナークロスで稲荷崎のコートに叩きつける
「ッシャオラァァァァァ!!」
「ウワァァァァ!!!」
田中さんの雄叫びと仲間の歓声
そしてピーッと第一セット終了の笛が吹かれる
「こーゆーとこ…普通何回もミスして今日調子悪いかな、もう無理かなって怖くなるところを挑んでいくメンタル、相手がどんなに強くても真っ直ぐ折れない心って誰でもが持ってるものじゃないって思う」
そう言うと、やっちゃんもコクコクと頷く
そして私たちはタオルとドリンクを抱えて、1セット目を勝ち取った仲間たちの元に走り出した